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霊感ゼロの紙芝居中年と、霊感教師の微妙で絶妙な関係性が良し-『なぞとき紙芝居 思い出の幽霊』

『なぞとき紙芝居 思い出の幽霊』

中村ふみ/2015年/240ページ

高校生の木崎奏が近ごろ親しくなった年上の友人・御劔耕助は、物語を考え、絵を描き、自分で上演する紙芝居屋だ。ただし観客のニーズに応じないバッドエンド仕様が祟って、まったく商売にはなっていない。ところが不思議なことに彼の紡ぐ物語はそれを必要としている人にとって、ときどき大きな“救い”になることがあるらしい…それが生者か死者かは関係なく。紙芝居が切ない過去をひもとく、心ほっこりミステリ、第2弾登場!

(「BOOK」データベースより)

 

 第1話「絶叫ナイト」-奏と友人の日吉、地学部部長の竹田は学校に泊まり込んで天体観測をすることに。顧問代行として百合が、そしてなぜか御劔も参加することになるが、案の定体育館に幽霊が出現。まったく霊感のない御劔と幽霊のバスケ対決。
 第2話「記憶の中の毒」-老人ホームに勤める奏の母親から、「殺人鬼だった父親の悪霊に殺される」とおびえる重野老人の話を聞いてほしいと頼まれた奏と御劔。重野老人の父は戯れに村の女を殺害したあと、家族に毒を盛って無理心中を図ったが、重野老人のみが生き残ったのだという。御劔は老人の村へと実地調査に赴くが…。この回も「なぞとき」には結局失敗しているのだが、人の心を救うことのほうが真実よりも優先されるというスタンスは本シリーズに通じているものかもしれない。
 第3話「ペーパーシアター」-奏と公民館で「紙芝居づくり講習」の講師をしていた御劔は(ほんと仲いいなコイツら)、旧友の山口と再会。山口は高校時代のクラスメイト・佐野が、妻を亡くして以来、心を壊してしまったことを語る。佐野の妻だった高梨絵里子もまた、御劔たちのクラスメイトだった。御劔は佐野の‟中”にいる絵里子に向け、渾身の紙芝居を作り始める…。御劔の過去編であると同時に、過去との決別をも描く好編。
 第4話「Dかもしれない」-前巻にちょろっと名前が出ていた都市伝説「Dの女」。捕まえた悪霊を相手に取り憑かせる霊能力者、Dの女の正体は百合の叔母・こよりだった。意識不明のまま延命治療を受け続けているこよりは、百合に憑依するために生霊を飛ばしていたのだ。叔母との決着をつけようとする百合に対し、御劔が力を貸すのだが…。

 2巻にして最終巻。霊能者で公務員で強気な女性という、あらゆる意味で御劔と対比手的な大野百合にスポットが当たった巻。本書で描かれる「事件」の大元になった人間たちの心はひどく醜く歪んだ空恐ろしいものばかりだが(2話以降全部そんな感じである)、キャラクターのおかげで陰鬱なイメージは少ない。ライト向けにしつつもホラー要素をしっかり描くところは好印象。御劔の祖父の話、百合と御劔家の因縁など語られなかった伏線もあり、何より話として面白かっただけに最終巻なのが悔やまれる。

★★★☆(3.5)

 

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