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周囲も自分も‟リセット”して姿を消す連続殺人鬼を追うサスペンス-『デジタルリセット』

『デジタルリセット』

秋津朗/2021年/352ページ

第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作!

許すのは5回まで。次は即リセット――。理想の環境を求めるその男は、自らの基準にそぐわない人間や動物を殺しては、別の土地で新たな人生を始める「リセット」を繰り返していた。
一方、フリープログラマーの相川譲治は、シングルマザーの姉親子の失踪に気付く。姉と同居していたはずの男の行方を追うが……。
デジタル社会に警鐘を鳴らすシリアルキラーが誕生! 第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作。

(Amazon解説文より)

 

 仕事は優秀、美形で高身長、何ひとつ欠点が無いかのように見えるその男は「理想の環境」を追い求めていた。家族に上司に同僚にペット、周囲が「理想」から外れた場合は皆殺しにし、すべて“リセット”して新たな自分に生まれ変わる。稀代の連続殺人鬼は、いくつもの経歴を使い捨てにしながら現代社会に潜んでいた。

 フリープログラマーの相川譲治は、姉の恵美と甥、姪が姿を消していることに気づく。仕事先のIT企業経営者・沖山とともに恵美と同居していたはずの男を調査するが、その正体は杳として知れない。一方、不動産会社の広報・正木由香は、姿を消した社長と同僚を追っていた…。

 

 作者は現役のSEのようで、“デジタル”関連の描写はリアリティがある。チョイ役を立たせるのもうまく、頼もしい相棒の沖山や陽キャのアンちゃんの島本をはじめ、「ごく普通の、気のいい市井の人々」が妙に印象的だったりする。文章も達者で、残された細かな手がかりから殺人鬼の正体を追い詰めていくというシンプルな構成も含めて往年のサスペンス小説のような味わいがある。

 筋立てがシンプルなぶん気になる点も目立ち、残りページが4分の1を切った辺りで譲治と由香が出会ってロマンス的な展開になるのは少々遅い気もするし、実際この2人が協力して事件を調査する場面もそう多くない。殺人鬼が「理想の環境」を追い求めるようになった過程はプロローグで軽く触れられたのみだし、彼の心中もほとんど描写されないので謎が多い。共感性皆無のサイコパスだからこそ、その内面を知りたかった気もする(貴志祐介『悪の教典』はハスミンの心理描写が充実していたからこそ怖かったのではないか)。よくできた作品ではあるが、ホラー大賞作品ならば「よくできた作品」以上の爪痕を残してほしかった。

★★★☆(3.5)

 

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