『なぞとき紙芝居』
中村ふみ/2015年/256ページ
高校生の木崎奏が出会ったのは、職業も風体もどこか浮世離れした御劔耕助という男。常に和服で丸眼鏡、紙芝居屋を自称し、喫茶店“ひがな”の地下室で昭和レトロな品々に囲まれて暮らす謎多き人物だ。観客のニーズをまるっと無視したバッドエンドの紙芝居ばかりつくる御劔に、なぜかいたく気に入られてしまった奏は、そこから不思議な夏休みを過ごすことに…。紙芝居が秘められた過去をひもとく、心ほっこりミステリ!
(「BOOK」データベースより)
ごく普通の体育会系男子高校生・木崎奏は、町内会の夏祭りをきっかけに自称・紙芝居屋の御劔耕助と出会う。バッドエンドしか作れないという御劔が祭りで披露したゾンビ紙芝居で、子供たちは阿鼻叫喚の惨事に。以降、なぜかウマが合う仲となった奏と御劔は心霊騒動にたびたび巻き込まれるが、なんの霊感もない御劔はその洞察力と鈍感さで事件を解決したりしなかったりするのであった。
この手のバディものだと御劔のような昼行燈キャラが霊や怪奇現象の案内人になったりするものだが、そこをうまいこと裏切ってきてくれる。「なぞとき」とは言っても起きる事件はささやかなものだし、ぶっちゃけ紙芝居もあまり出番は無かったりする。とは言え登場キャラクターはみな血が通っていて魅力的だ。御劔は「バッドエンドしか書けない」というわりには、死者を鎮魂するための「普通のイイ話」を書いたりもするので、そこはちょっとブレているというか都合を感じてしまうが。
ストーリーもバラエティに富んでおり、単なる依頼解決モノにはなっていない。典型的な心霊スポット怪談である第1話「バッドエンドの男」。奏の祖母の思い出話をバッドエンドにしてしまった御劔が、ひとひらの真実から奏の祖父の心を癒す第2話「沼神」。都市伝説の幽霊‟Dの女”を捕まえようとして心霊スポットに迷い込んだ子供達を救う第3話「通り道」。子供の幽霊が出るアパートの部屋で御劔が1か月暮らすことになる第4話「君のための紙芝居」。4話では除霊能力がある臨時教師・大野百合も登場、御劔という苗字に何か思うところがあることを匂わせつつ次巻への引きとなる。
御劔をはじめ、どことなく浮世離れしたキャラは多いものの、物語や設定は地に足がついたリアリティがあるためすんなりと話に入っていける。いろんな意味で‟ちょうどいい”お話でした。
★★★☆(3.5)