『貞子』
牧野修(著)、鈴木光司(原作)、杉原憲明(脚本)/2019年/304ページ
日本で一、二を争う最新治療が望める総合医療センターで臨床心理士として働く秋川茉優。そこに記憶を失った少女が運び込まれた。茉優の弟の和真は動画配信で伸び悩む再生回数を増やそうと、最近放火事件で多くの死者を出した団地に潜入し心霊動画の撮影を試みるのだが…。鳥の啼く夜に次々と死んでいく人たち。20年以上も前の貞子の呪いが復活か。映画で語られなかった背景や登場人物たちのエピソード満載のノベライズ。
(「BOOK」データベースより)
映画は鈴木光司『タイド』を基にしているらしいが、ぜんぜん内容が違う。ほぼウソである。どちらかというと1作目の映画『リング』との関連性が強く、懐かしい名前(とは言え、相当のフリークでもなければ覚えていないような名前)もいろいろ出てくる。
さすがは牧野修、登場人物の心情の描き方が非常にうまく、単なる映画の補完としてのノベライズを超えた読み応えある内容。序盤の初子にまつわるエピソードの痛ましさとおぞましさには心冷えるし、「心霊スポットで動画撮ったら呪われたYouTuber」という軽薄なバカタレにしか見えない和真も、茉優との絆をこうも強調されると“一山いくらの死にモブ”以上の存在に思えてくる。ただ残念ながら、シナリオ自体が抱えている欠点――貞子の呪いの発動条件が不明瞭すぎたり、普通なら真っ先に死ぬようなアンポンタンが何のお咎めも無かったり、そもそも貞子が何をしたいのかわからなかったりといった点は解消されておらず、読み終えてもどうもスッキリしない。そもそも原作映画の時点で、チョイ役の親族とかを出す余裕があるなら芯となる設定を作り上げてからにしてもらいたい。
★★★(3.0)