角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

必読の最恐作・珍怪作も。人の内面の歪みを暴く時代物ホラー集-『こわい本3 狂乱』

『こわい本3 狂乱』

楳図かずお/2021年/384ページ

楳図かずおの恐怖短編時代劇の名作を収録。

江戸時代。美しい娘のいる家に小判がふれば娘は殺される――。たたりの原因を調べる親分は何者かに切られ、娘のひとみが犯人を追ううちに、死体の頭に恐ろしい傷のぬいあとがあることに気づく。ひとみの推理が冴える「ふりそで小町捕物控」。応仁の乱の末期、残虐な領主に家族を殺された鬼丸は、仏師・海慶の彫ほ る不動明王に魅せられ……「人喰い不動」。室町時代後半。烏山城主・烏山主水之介は能面の蒐集マニアだったが、ついにはこれぞという面を作らせようと、城下に住む能面師・夜叉面のもとを訪れたが、「けがれた気持ちで面はつくれませぬ」と断る夜叉面。怒った主水之介は夜叉面を切り捨ててしまう。夜叉面の孫で弟子の重太郎は、復讐を誓う。美貌の青年に成長した重太郎は面づくりの支度を始め、自らの顔にのみの刃を当て……「肉面」。他、「復讐鬼人」「木の肌花よめ」「悪夢の数式」を収録。

(Amazon解説文より)

 

 「ふりそで小町捕物控」-病気の父親に代わって十手を預かるふりそで少女・ひとみが怪事件を推理する時代劇ミステリ。美少女を誘拐する代わりに小判を残していく天狗の集団。毒殺された母親の恨みを晴らすかのように、着た者を呪い殺すたたりの着物。美形の役者・花之丞と彼を慕う少女・多恵の仲を引き裂かんとする怪人物。霊かあやかしの仕業としか思えない事件のトリックをひとみが暴き、真犯人の醜い欲望を露わにするという展開。事件解決のためならわりとトンデモないことをやらかす、ひとみの半ば強引な行動力。ヤバい。
 「人喰い不動」-虐げられた民の怒りが不動明王に乗り移り、領主とその一族を喰い殺す。楳図によれば編集者の企画であり、「僕のほかの作品とは雰囲気がまるで違う」との事。不動の鬼気迫る表情がなんとも凄まじい。「復讐鬼人」-殿様に舌を焼かれ、両腕を斬り落とされた侍が前代未聞のやり方で復讐を遂げる話。ラスト1ページの展開があまりに想定外。「肉面」-面の収集が趣味の殿様が、とある面作りの名人を斬り殺してしまう。復讐を誓った孫がとったおぞましい手段とは…? 他の時代物とは異なる手塚治虫風の丸っこいタッチとの落差で、ショッキングシーンがめちゃくちゃに恐ろしいことになっている。これは怖い。トラウマ級。
 「木の肌花よめ」-庭の松の木が年頃の娘を木に変えてしまう怪奇譚。「悪夢の数式」-読むだけで自分の精神を虫や小動物、果ては無機物にまで転移できる数式を発見した少年が、あこがれの未亡人に近づくために一計を案じるが…。本作のみ時代物ではなく、ついでに言うとホラーかどうかも微妙なドタバタギャグであり、本書の中では相当に浮いている。とは言えこの圧倒的なバカバカしさはインパクト抜群で、傑作には間違いない。

 巻末コーナーでは楳図かずお+草間彌生の「伝説のしましま・みずたま対談!!」なる謎コンテンツの前半を収録。横縞のハンカチを縦縞にする手品を披露する楳図、「前衛の方って、お食事は何を食べていらっしゃるんですか?」という楳図の問いに「ギョウザ」と答える草間など、読んでてこれだけハラハラする対談もなかなか無い。なんなんだ。

★★★☆(3.5)

 

◆Amazonで『こわい本3 狂乱』を見る(リンク)◆

www.amazon.co.jp