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偉人のDNAを持つクローン人間たちの超能力バトルロイヤル! 救世主の座に就くのは果たして…-『人造救世主』

『人造救世主』

小林泰三/2010年/256ページ

女子大生のひとみは、留学生のジーンと共に古都の寺院を訪れていた。そこに西洋風の同じ顔を持つ者たちが突如出現し、建造物を破壊し始め、ひとみ達にも襲いかかる。二人の窮地に現れたのはヴォルフという謎の男。ヴォルフは単騎、その集団に戦いを挑むが…。寺院を破壊する謎の集団の目的は?そして“一桁”と呼ばれるヴォルフの正体とは!?人類の存亡を賭けた未曾有のダーク・オペラシリーズ、ここに開幕。

(「BOOK」データベースより)

 

 謎の組織「MESSIAH(メサイア)」が、彼らにとっての救世主を造り出すため、偉人のDNAから再生した超能力クローン人間たちをバトルロイヤルさせるというお話。小林泰三版平成ライダーというかFGOというか、まあ早い話が少年ジャンプ系のバトルアクションシリーズである。偉人クローンたちは風貌こそ面影を残しているものの性格はだいぶ異なるようで、発現した能力もあまり元ネタとは関係ないものが多い。あまりオリジナルに寄せすぎるとチープになるので、まあ無難な落としどころではないだろうか。

 主人公・ヴォルフは超能力を発現できなかった出来損ないのクローン〈一桁〉のひとり。MESSIAHを脱走したヴォルフは奈良の寺院で女子大生のひとみ、ジーンと出会うが、そこへMESSIAHの戦闘員とクローン人間の赤鬼丸(せっきまる)が襲来。奴らの狙いは仏舎利に付着した釈迦のDNAだったのだ。次々襲い来るMESSIAHの刺客たちに対し、ヴォルフはどう戦いぬくのか…というのが本作の概要である。

 

 ひとみ、ジーンの能天気ぶりはあまりにライトな雰囲気だが、超能力者たちが「容易に能力の正体を明かさない」というリアルさのおかげでなかなか読みごたえがある。敵も味方もやられ役のモブも、作者特有の七面倒くさいセリフの応酬の中、相手の能力を推察しつつ戦う有能な連中ばかり。継承戦編の『HUNTER×HUNTER』の雰囲気にちょっとだけ近いかもしれない。ちなみにヴォルフは無能力者ではあるが、クローンたちを崩壊させる能力を持つロンギヌスの槍(出た!)を所持しているのがアドバンテージとなっている。槍と主人公はよく似合う。

 

 ちなみにこのシリーズ、キャラの外見描写がシンプルなせいで「表紙に描かれているのが誰かわからない」という共通の特徴がある。この巻の表紙は〈二十二番〉のテレパス・鱗だろうか。この表紙のキャラの服装が「ドラマの『くノ一』のようないでたち」かどうかはたいへん微妙なところだが、よく見ると頭からテレパスっぽいエフェクトが出ている。もう1人の女性キャラ・葵の服装(タンクトップに杖)とは完全に違うし、消去法で鱗しかいない。

★★★(3.0)

 

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