角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

恨みと呪いがもたらす自縄自縛! 長編「紅グモ」に傑作「ダリの男」ほかを収録-『こわい本4 呪縛』

『こわい本4 呪縛』

楳図かずお/2021年/368ページ

これは呪いか、愛か――あなたを捕らえて離さない楳図かずおの恐怖譚

人の身体に巣食う恐ろしい蜘蛛に捕らわれた、美しい姉妹が味わう恐怖を描く「紅グモ」。すべて競い合ってきた兄弟の憎悪の深さに震撼する「独眼鬼」など5篇。巻末企画に草間彌生氏、ヒグチユウコ氏も登場!

(Amazon解説文より)

 

 他人の心を操り、また自らの運命をも縛りつける「呪縛」の恐ろしさを描く5編。

 「紅グモ」-たか子と美也子の姉妹の家にやってきた継母は、財産の乗っ取りを企む悪女だった。クモ研究家の父親の研究室から、人の体内に潜り込む紅グモを盗み出した継母は、たか子の身体に紅グモを入れてしまう…。クモが体の中に入り込んで増殖するという生理的嫌悪感、生きながら埋葬される脅威、自分が一夜にして老婆になってしまう絶望、肉親が恐ろしい別人と変わり果ててしまうことへの恐怖…。読者を怖がらせるシチュエーションを、これでもかと言うほどに詰め込んだ長編。たか子が何をしたいのかわからなくなる中盤はかなりグダっており、舞台が学校に移って以降は完全な蛇足であるが、クモの生態を存分に発揮してのショック・シーンの連続には並々ならぬサービス精神を感じる。

 「独眼鬼」-石垣城城主の息子、兄の鷹之助と弟の虎之助は何かにつけて張り合う仲であった。ある日、鷹之助が射った矢が目に刺さり、虎之助は片目を失ってしまう。武術への道も城主への絶たれた虎之助だが、「兄はわざと自分の目を狙ったのではないか」という可能性に思い当たり、すさまじい憎悪を燃やす…。世にも風変りで凄惨な復讐の物語。

 「残酷の一夜」-子供が生まれたばかりの夫婦のもとを訪れた男は、自らを死神と名乗った。死神は抱えていた木の箱を夫婦に差し出し、残酷極まりない運命を告げる…。変えようのない運命という呪縛を描いた作品だが、自称・死神が勝手なことを言っているだけのようにも思えるなあ。

 「ダリの男」-自らの醜さを嘆き憎む男は、美しい娘を妻にするため、彼女の認識を歪めようとするのだが…。心の歪みが外観に現れるというテーマの一編だが、彼が最後に見たものはどこまでが真実だったのかも怪しく、妄執と狂気の物語とも取れる。異形としか言いようのないビジュアルが素晴らしく、楳図かずお短編の中でも個人的にはトップクラスに入る出来。

 「手」-週刊少年ジャンプ創刊号に掲載された歴史もの読切。日高城の城主の娘が火事に巻き込まれ、城主は「助けた者は姫を嫁にやる」と告げる。ある若侍は顔に大やけどを負って姫を救出するが、その醜い顔を疎んじた城主は侍に毒を盛る…。壮絶な血みどろ展開に何の救いもないラストは素晴らしく、これを創刊号に!? と驚いてしまう。

 

 巻末にはヒグチユウコの語りおろしエッセイを収録。前巻に引き続いての楳図かずお・草間彌生の「しましま・みずたま対談!!」もムチャクチャな内容で大変面白い。

★★★☆(3.5)

 

◆Amazonで『こわい本4 呪縛』を見る(リンク)◆

www.amazon.co.jp