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呼べば死ぬ都市伝説「マチコさん」、ひとりでに歩く人形…。怪談の真相を霊能鑑識で暴け-『ゴースタイズ・ゲート 「世界ノ壊シ方」事件』

『ゴースタイズ・ゲート 「世界ノ壊シ方」事件』

中井拓志/2012年/312ページ

霊能少女・芙癸の脳機能データを鑑識に導入して捜査を行う、警察庁科警研心理三室。今回、心理三室の研究員・夕季が乗り出したのは、女子中学生が鏡を叩き割り、全身切り刻まれた状態で発見された事件。これと似た女子中学生の不審死は3ヶ月で3人目。さらに被害者たちの中学では、“ある儀式をすれば鏡の裏から「マチコさん」が現れて「世界の壊し方」を教えてくれる”との都市伝説が広まっていた―。霊能鑑識事件簿、待望の続刊。

(「BOOK」データベースより)

 

 「case03:世界ノ壊シ方」では、学校で広まる「マチコさん」召喚儀式の謎に心理三室が立ち向かう。女子中学生が自殺する事件が続けざまに3件発生、現場には鏡と蝋燭が残されていた。1人はすさまじい勢いで窓から飛び降り、1人は後ろ向きに猛ダッシュしつつ歩道橋からダイブ、1人は叩き割った鏡の破片で自らの身体を切り刻んだ。普通ではありえない奇妙な死は、「世界の壊し方」を見せてくれるというマチコさんの仕業なのか…? 都市伝説を脳科学で解明する回であり、どこかで普通に流布されていそうなマチコさんの儀式が実にリアル。前巻で多少感じられたトンデモぶりが抑えられており、真相を鮮やかに解き明かす過程はなかなか痛快。

 「case04:顧みの人形」。妻が夫を絞殺し、その死体を桜咲く公園に遺棄する殺人事件が発生。だが当の夫婦の関係は良好で動機がいっさい見当たらず、妻のほうもなぜ自分が夫を殺したのかわからないと答える。さらに鑑識課は、被害者の寝室に置かれていた人形が勝手に動くと報告。どんなに向きを変えても、翌朝になると死体が置かれていた公園の桜の方角を向いているのだという。その様はまるで人形がひとりでに歩き、嗤っているかのようで…。心理三室が現場に駆り出され、メカニックの井の頭は人形に隠された秘密に気づく。あまり脳科学の出番のない回で、「勝手に動く人形」への現実的なアプローチが中心だがかなり面白く、ネタ切れのような気もするし、こちらの方向性もアリだなという気にもさせてくれる。

 残念ながら続刊は出ておらず、芙癸と夕季の過去に起きた出来事の真相や、意味ありげな「マチコさん」の正体といった謎は残ったままになってしまった。やはりちょっとキャラが弱い印象があり、前巻の女霊媒師だの、case:03の優秀かつ誠実な下川巡査長だのといった印象深いキャラに限ってゲスト出演だったりする。警察小説としてもオカルトハンターものとしても独自の面白さがあり、惜しいシリーズである。

★★★☆(3.5)

 

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