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目撃者を死に誘う霊、左腕が起こす殺人…。怪事件を霊能力と脳科学で解明!-『ゴースタイズ・ゲート 「イナイイナイの左腕」事件』

『ゴースタイズ・ゲート 「イナイイナイの左腕」事件』

中井拓志/2011年/318ページ

警察庁科警研心理三室。ここの目的は、霊能力者とその脳機能パターンを鑑識に導入すること。現場に煙たがられながらも今回、心理三室が投入されたのは、素手で頚部を抉るという人間離れした殺人事件。被害者は、PCに死体画像を山ほど蓄えたネットの心霊動画職人。判明したのは犯人が左利きということだけ。夕季は、いわくつきだが強力な霊能力を持つ少女・芙癸と共に事件を追うことになるが―。霊能鑑識事件簿、ここに開幕。

(「BOOK」データベースより)

 

 「霊能力者を利用した鑑識」を行う警視庁のはぐれ部署・心理三室の面々が、オカルトな事件に立ち向かうゴーストバスターもの。あらゆる怪奇現象を科学(おもに脳科学)で解明しようとする姿勢はユニークで、なかなか興味深く読める。ゴースタイズ(ghostize)とは「人を霊的状態にする」という意味らしい。
 「case01:鏡の縁の女」では、ダム湖近辺で多発する幽霊目撃情報について調査する。心理三室お抱えの霊能力者・白石芙癸(ふき)と、かつてテレビ界を席巻した霊能力者「高円寺の婆」こと富沢ミサエの協力のもと、彼女らの脳機能データを観測しつつ霊の目的場所へ向かうことに。常にぼんやりとしたマイペースな少女・芙癸の様子に最初は悪態をつく高円寺の婆様だったが、そのあまりに圧倒的な霊力には驚愕するばかりだった。そして現れる首の折れた女の霊、トンネル内を浮遊する生首、自動車に付く手形といった怪異の数々。それらの現象をみごと科学的に解明した心理三室は、本格的に現場へ出動する権利を得たのだった。
 「case02:イナイイナイの左腕」では、ニセの心霊動画を作っているクリエイターたちが自らの左腕と格闘したあげく殺される…という怪事件を追う(この作者はつくづく左腕:レフトハンドが好きらしい)。左腕の暴走は脳梁の機能不全によるものと推測した心理三室の面々は、「左腕に殺された少女」という都市伝説の発端となった廃病院へ向かう。その病院はかの心霊動画クリエイターたちが訪れた場所でもあった…。

 どう見ても霊の仕業でしかない現象を科学的に解明していく過程が面白いのだが、ぶっちゃけかなり強引な理屈も多く、作中人物も心底納得しているのか納得したフリをしているのかよくわからなかったりする。まあ警察組織的にも心理三室はうさんくさい部署として見られており、事件が解決さえすれば細かい点は不問みたいな雰囲気もあるのでその辺はどうでもいいのかもしれない。
 個人的には、登場人物にあまり魅力を感じられないのがちょっと気になった。いちばん頼もしく印象的なのは高円寺の婆様だったりするがレギュラーではないらしい。彼らの過去はなかなかに入り組んでいるらしく、この辺が続編でちゃんと描写されればまた印象は変わるかもしれない。

★★★(3.0)

 

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