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日常に怪異を引き寄せてしまった女たち。オチは弱めだがそれなりに読ませる-『ジェラシー 恐怖を喚ぶ六人の女』

『ジェラシー 恐怖を喚ぶ六人の女』

鎌田敏夫/1994年/243ページ

友達との待ち合わせ、奈美はひとりバアで待っていた。他の客が皆、私を見ている。初めて入ったバアなのに…。孤独や不安が波に襲いかかる。
恋人の心変わりに激した女の仕組んだ罠とは? 女心の奥に潜む、嫉妬が狂気を喚び寄せる。――日常の恐怖を鋭くえぐる六つの物語。書下し連作小説集。

(裏表紙解説文より)

 

 『ルージュ 恐怖を運ぶ六人の女』の実質的な続編だが、「怪異となった女」を描く作品が多めだった前作と比べ、「怪異と出会う女」の話がメインになっている。

 「ジェラシー」-初めて入ったバアで、ママや客たちから冷たくあしらわれてしまう奈美。「他の女のふりをしたって、ダメなんだよ。この嘘つき女」と罵倒され、自分が誰かと勘違いされていることに気づく。自分は別人だと訴えても誰も信用してもらえず、客たちはついに奈美を木箱に押し込め…。非常に先が気になる導入ながら、真相とオチが陳腐なのが惜しい一作。「ビデオテープ」-夫の隠し戸棚から見つけたビデオテープ。ひょっとしてアダルトビデオ? SMやロリータ、同性愛ものだったらどうしよう…と心配しつつビデオを再生する妻だが、そこに映っていた光景は彼女の理解を越えるものだった。「鍵」-一人住まいの独身女性がうっかり落とした鍵をストーカー男が拾い、彼女が留守の間に忍び込んで…という捻りのないサスペンスだが、それなりに面白く読ませる文章力。「電話の女」-真知子の元へかかってきた、知らない女からの電話。「小堀は他にも女がいる」というのだが、そもそも小堀という男を真知子は知らなかった。その一週間後、真知子は小堀という男性と出会い親しくなる。電話の女は小堀の元妻で、小堀の未来を予言することができるのだという…。ストレートな題材の多い本書の中では、独自性のあるシチュエーションが光る。「髪」-引っ越したら趣味趣向や顔つきまで変わってしまった女の話。これもまあよくある怪談。「マンション」-とあるマンション4階の住民たち―久しぶりに妻と2人きりで会う単身赴任中の夫、友人らを集めて誕生日パーティをする女、彼氏に別れ話を持ち出されている劇団員、恋敵を殺してしまった女、4つの部屋で起きる一夜の出来事を並行して描く。ラストに至るまで4つの話はまったく繋がりを見せることはなく、別々に結末を迎えるので少々肩透かしだった。同じ空間にありながらも、まったく異なる様相を見せるそれぞれの人生を見せたい…という狙いはわかるのだが、「関係無さそうに見えていた話が、実は…!」というオチを勝手に期待してしまっていた。

 『ルージュ』でも似た感想を持ったが、話の導入部や途中の展開はそれなりに面白いのに、オチの部分で不満を感じる作品が多い。どんでん返しが無ければ短編じゃない…とまで言うつもりはないが、もう少し気の利いた結末が欲しいと思ってしまう。

★★☆(2.5)

 

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