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村に恵みもたらす因習のおぞましき真相。田舎ホラー・土着ミステリの金字塔-『悪魔の収穫祭』

『悪魔の収穫祭(上)』

トマス・トライオン/1993年/308ページ

ネッドは家族とともにコーンウォール・クームの村に移り住んだ。陽光と土の香り、昔ながらの方法でトウモロコシを育てる農民たち。そこはまさにネッドの考える理想郷だった。ただ1つ気になるのは、墓地の外にぽつんと建つ墓だった。自殺した若い女のものだというが、村人は多くを語ろうとしない。ネッドの不審の念はますます強まった。その時から彼は、村の恐るべき秘密と禁忌の中に、大きく足を踏み入れていたのだった…。

(「BOOK」データベースより)

 

『悪魔の収穫祭(下)』

トマス・トライオン/1993年/329ページ

ネッドは村の歴史を知るにつれ、その秘められた魔性に慄然となった。だがタブーの壁は厚かった。収穫祭の夜、森ではいったい何がおこなわれるのか?墓地の外に葬られた女の死の秘密とは?舌を切りとられた男は何を見たのか?やがて起るおぞましい事件を機に、ついに村は本性を表わした。そして訪れた収穫祭の夜―土俗とエロスを融合させ、戦慄の猟奇世界を創造するモダン・ホラーの傑作。

(「BOOK」データベースより)

 

 1986年に文庫化された作品だが、角川ホラー文庫レーベルとして創刊ラインナップに加えられている。『悪を呼ぶ少年』のトマス・トライオンのデビュー2作目であり、いわゆる「田舎ホラー」のスタンダードである。

 会社を辞め画家として生きていくため、辺境の田舎コーンウォール・クームへと引っ越してきた主人公。村人はみな気のいい人間ながらも閉鎖的であり、昔ながらの生活に則ってとうもろこしを育てることを何より優先するような土着的なムラである。そんなところにインテリじみた都会人の主人公が越してきたもんだから、まあいろいろとロクでもないことに首を突っ込んでしまうんですよ。登場人物もある意味お約束で、村人たちから崇め奉られる魔女のような未亡人、最先端の農法を導入しようとして煙たがられている青年、森を縄張りとするならずものの一家、とうもろこしの王として尊敬を集めるイケメン農場主、お調子者の行商人、村の歴史と言い伝えを知る盲目の教授…といった具合。

 この頃のモダンホラーにはよくあることながら、展開は少々スローモー。上巻は田舎暮らしのすばらしさを延々描くだけで終わってしまい、その間に起きた怪奇現象と言えば「主人公が幽霊っぽいものを見たかもしれない」くらいである。話が大きく動き始めるのは下巻も半分も過ぎたころだが、そこからは周到に張り巡らされた伏線を回収しながらの怒涛の展開。人々から疎まれつつ孤独に生涯を終えた女の死の真相は? 舌を切り取られた男が見た光景とは? 村を出たはずの青年の末路は? 教授はなぜ盲目になったのか? 真相が暴かれるたびに恐るべき村の因習が明らかになっていくという、非常に練られたミステリである。光無く言葉も無い、ラストのおだやかなシーンには心冷える。

★★★☆(3.5)

 

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