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ライバルの悪役令嬢がいちばんイキイキしてるラブコメ伝奇譚-『帝都月光伝 Phantom of the Moon』

『帝都月光伝 Phantom of the Moon』

司月透/2013年/285ページ

魑魅魍魎の跋扈する帝都・東京。主演に抜擢された女優が次々に行方不明および死亡するという、いわくつきの舞台『宵の歌姫』の上演が決まった。この不吉な作品の裏に“堕ちた月の民”の関与を感じた作家・祀月令徒は、“月神”憑きの自動人形・朔と共に謎の解明に乗り出す。一方、令徒の担当編集・御山さくらは、公園の樹上から不思議な男の歌声が流れてくるのを耳にする。だが声の主の姿は見えず…。戦慄のルナティック・バトル。

(「BOOK」データベースより)

 

 まるで「帝都」感がないのは前作と同じだが、記者として事件を追う主人公・さくらを始め、引き続き登場するレギュラー陣の仕事ぶりが垣間見えるのと、「主演女優が次々に死を遂げる演劇」という題材がお約束ながらも興味深いため、前作よりは楽しく読めた。「月から堕ちた鬼を、月から来た神とそれを崇める一族が退治する」という基本設定は相変わらずピンと来ないのだが…。イケオジな一族の当主・築夜の登場でラブコメ方向に振り切った感があり、ホラー度はますます薄れているものの、まあこういうシリーズなので問題ないだろう。

 ただ、まだまだキャラの印象は薄い。本シリーズの登場人物でいちばん行動に芯が通っているのは、悪役令嬢然としたライバルキャラ・西崎佐智枝かもしれない。ですわ口調の財閥のお嬢様で、さくらの商売敵でもある雑誌編集者であり、祀月令徒の連載と彼自身の愛を勝ち取るために勝負を挑んで来たりするオモシロキャラである。彼女以外のキャラは主人公を含め掘り下げが足りておらず、本作で提示されたさくらの出生の謎だの、黒マントの正体だのは明らかになることなくシリーズ終了してしまった。

★★☆(2.5)

 

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