『夜叉の舌』
赤江瀑/1996年/323ページ
近江の町はずれで、黙々と刀剣の鞘づくりに打ち込む若き見習い職人・平河友威と、彼を見守り、その運命を導びき続ける一匹の赤い蜘蛛。両者の間に秘められた、妖しく摩訶不思議な出逢いとは。(表題作)夢幻、霊魂、死、エロス…魔性の世界を耽美色豊かに描き上げた、赤江美学の集大成。単行本未収録の秀作も収めた、自選恐怖小説集。
(「BOOK」データベースより)
赤江瀑の文章は本当に品がいい。まったりとしたテンポだが無駄や退屈さはなく、華美ではないが妖しく幽玄で、段違いなテクニックと教養を感じさせる。ぬる燗の日本酒のようなちょうどよさ。
冒頭の2作「草薙剣は沈んだ」「月曜日の朝やってくる」で描かれている怪異はオカルト雑誌の投稿欄レベルのささやかなもので、続く「悪魔恋祓い」「夜叉の舌」「春の寵児」は幻想と耽美に重きを置いた作品。ホラーを求めている読者からすればすっかり油断してしまうのだが、この次にぶち込まれる「鳥を見た人」「夜な夜なの川」は一転、ほんの少しのきっかけで歪んでしまう人の心の脆さを描いており、心底ぞっとさせられる。作品の掲載順も含め、非常に巧みな選集と言えよう。
★★★★(4.0)