『顳顬草紙 歪み』
平山夢明/2015年/240ページ
ある時、夜中に高野は、半睡半覚で気がつくと腕が伸びていた。腕は壁を抜けて自宅の外まで達し、なにかを掴んだ「腕の魂」。勉強に集中できなくなる度に決まって現れる、自分の姿によく似た幻影「ベンキョーに負ける」。山で道を誤った男は、近くの小屋に宿泊した。女が暮らしているその小屋では、決して見てはならないものがある「砂人魚」。幽霊でも人間の狂気でもない、解釈不可能の恐怖体験談を描く。戦慄の怪談実話、第2弾。
(「BOOK」データベースより)
「単なる〈霊のしわざ〉では終わらないような奇妙な話」を集めたと語る、実話怪談界の雄でもある平山夢明によるシリーズ第2弾。正直なところ「わけのわからなさ」では前作に及んではいないものの、えげつない話が多く普通の実話怪談モノとしても楽しく読める。ちなみに解説は押切蓮介による漫画。豪華。
語られていることすべてがまったく理解不能の「魚」、因縁なんだか怨念なんだか偶然なんだかわからない「イトマルの夢」、もはやSFに近い「いつかわかる」、地面から生えてる人を面白がって引っこ抜く妙な夢の話「さかさ」など、確かに奇妙、かつ恐ろしい話が多め。SF的奇妙さ重視で言えば、生物・無生物問わず「すり抜ける」話が妙に多く、「チコ」「でたらめ」「ぬける」「腕の魂」がそれに当たる。本書の中ではわかりやすい幽霊譚「こんばんは」も、死者からのわずか3文字のメッセージが異様に怖い。ラストの1作、一人称で語られる「砂人魚」は少々毛色の変わった話で、不気味さだけなら本書随一。実話怪談ではないが語られている怪奇自体は実話怪談風という短編である。
★★★☆(3.5)