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実話怪談の新境地? 霊なのかどうかもよくわからない、奇妙で理不尽な恐怖譚-『顳顬草紙 串刺し』

『顳顬草紙 串刺し』

平山夢明/2014年/304ページ

濃霧の湖の中、兄妹が乗るボートに近づく水音と、湖面から這い上がろうとする手「霧嫌い」。事故で視力を失った鍼灸師が見た、人形の影。その後部屋に立ち篭める異臭の正体とは「蛍火」。八百屋の軒先につながれた奇妙な猿に掴まれると、決まって家から死人が出る。ある日、猿が裾んだ相手は…「予言猿」。心霊現象でも人間の狂気でもない、怪談実話の新境地を拓く。それはコメカミとコメカミの間に宿る、かつてない恐怖体験談。

(「BOOK」データベースより)

 

 「何だかわからない話」を集めた実話怪談集。もともと実話怪談集には「なんでそんな仕打ちをするのかわからない」、「そもそもなぜ怪異を起こすのかわからない」みたいな話が多いのだが、理不尽さに特化するというのはわりと新しい視点だ。冒頭の2作「雛と抽斗」「泥酔」は素晴らしく、何か厭なことが起きているが何なのかわからないモヤモヤを存分に味わえる。ただ、こういう「わからない話」は意外と少なく、単にえげつなくて怖い霊の話もそこそこ多い。

 わからない系では上記のほか「傷口」「正気玉」「予言猿」がわからなくて面白い。なんとなくはわかるが、よく考えるとわからなくて怖い。「霧払い」「ハカナメ」は悪意を持った存在がいることはわかるが、どうも幽霊とかそういう関係ではなさそうだし、結論から言えばよくわからない。欲を言えばこの手の話「だけ」を集めてほしかったが、一編一編に色濃く漂う気味の悪さはかなりのもの。

★★★☆(3.5)

 

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