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すべて手遅れ、忌まわしき因習の果て。詰み状態で始まり詰んだまま終わる絶望の土着ホラー-『極楽に至る忌門』

『極楽に至る忌門』

芦花公園/2024年/352ページ

最強の拝み屋・物部斉清ですら止められなかった土地の怪異

四国の山奥にある小さな村。そこには奇妙な仏像があり、大切に祀られていた。帰省する友人・匠に付き添い、東京から村を訪れた隼人は、村人たちの冷たい空気に違和感を抱く。優しく出迎えてくれた匠の祖母の心づくしの料理が並ぶなごやかな夕食の最中、「仏を近づけた」という祖母の言葉を聞いた瞬間、匠は顔色を変える。その夜、匠は失踪し、隼人は立て続けに奇妙なことに巻き込まれていくが――。東京での就職を機に村を出て、親族の死をきっかけに戻ってきた女性が知った戦慄の真実。夏休みに祖父の家にやってきた少年が遭遇した恐るべき怪異。昭和、平成、令和と3つの時代の連作中篇を通して、最強の拝み屋・物部斉清ですら止められなかった、恐ろしい土地の因縁と意外な怪異の正体が浮き彫りになっていく……。ホラー文庫30周年記念、書き下ろし作品。

(Amazon解説文より)

 

 4つの章からなる土着信仰ホラー。著者の他作品でたびたび登場する拝み屋・物部斉清も終盤から登場するが、前知識は必要ないので本作から読み始めてもOKだ。

 「頷き仏」-大学生の志村隼人は友人の籠生匠と共に、匠の祖母が住む田舎を訪れていた。だが村の様子はどこかよそよそしく、すれ違う村人たちは匠の顔から目を逸らそうとする。村八分の話を聞かされていた隼人は、匠たちの境遇に不安なものを感じるのだった。そして祖母の家で起きる怪異。姿を消す匠。葬式の場が惨劇に変わり、村人たちの態度はより不審さを増す。村にひとり取り残された隼人のもとへ、拝み屋の津森日立と名乗る男が現れる…。

 「泣き仏」ーパワハラで会社を辞めた籠生美和は、自ら命を絶つ前にいちど実家へ帰ろうと考える。美和の両親は行方不明になっており、今は祖母がひとりで実家に住んでいた。だが美和が帰省を告げた直後に祖母が急死。無遠慮で厭味な親族に辟易としつつ、実家で遺産相続の手続きを進める美和だったが、なぜか彼女は村で非業の死を遂げた少年「タケ」の白昼夢を見るようになる。美和の母親が遺した日記、村に伝わる猿神信仰、そしてタケの記憶が指し示す残酷な真実とは。

 「笑い仏」-VTuber好きの小学4年生・籠生優斗は両親と田舎に帰省していた。従妹が山小屋で見つけたという古いすごろくらしきもので遊ぶ優斗だったが、マスには「未曾有の大飢饉」「子捨て」「お別れ」と不穏な単語ばかり書かれている。そしてあがりのマスに到達した瞬間、にこにこと笑う子供が優斗と従妹の前に現れ、笑顔のまま「たすけてえ」と悲鳴をあげる…。

 

 さまざまな視点から閉鎖的な田舎の忌まわしき因習を描く、ド直球の作品。わらべ歌に生贄の慣習、「ほとけ」「指、舌、目」「てんじ」「極楽への鍵」…全編を通じて登場するキーワードも不気味極まりなく雰囲気は抜群。物部斉清が事件の顛末を語るエピローグ「外れ仏」の静かな余韻もよい。怪異がすでにどうにもならない時点まで進行している…というのはよくあるパターンだが(というかだいたいそのパターンだと思う)、いかにして「すべてが手遅れ」にまでなってしまったのかを、説得力ある形で描いているのは好印象。これぞ30年目を迎えた角川ホラー文庫のスタンダード! という感じのクオリティの高い一冊だ。 

★★★★(4.0)

 

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