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心臓移植手術を受けたら、手首から触手が飛び出る特異体質に!? 変化球のヒーロー誕生譚-『心臓狩り ①移植された悪夢』

『心臓狩り ①移植された悪夢』

梅原克文/2011年/295ページ

難病を発症し心臓移植を受けることになった堤雅之。手術は無事成功するが、すぐに雅之は奇怪な現象に悩まされ始める。嗜好の急激な変化、左足を引きずる癖、手首の異常な痒み、そして何者かに殺される悪夢―。様々な状況から雅之は、折しも世を騒がせている、有名人を殺して心臓を奪う謎の連続殺人犯に関係したドナーの記憶が自分に移植されたのでは、と疑いを抱く。さらに雅之の肉体には恐るべき異変が生じてきて―。

(「BOOK」データベースより)

 

 全3冊、3ヶ月連続刊行されたシリーズの1冊目。キャラクター小説にしてはやや年嵩(29歳)の主人公・堤雅之は、心肺移植手術を受けてから自分の身体の変化に悩まされていた。辛党だったのが急に甘党になり、知らない記憶がフラッシュバックし、なんだか手首がかゆいのだ…! 「地味すぎるなあ」と思いつつ読んでいたら、ふとしたきっかけで雅之は自らの長掌筋腱(手首の真ん中あたりにあるイカの骨みたいな筋)を手首から飛び出させて、異様なほどに伸ばせる能力がいつの間にか身に付いていることが判明。腱の先を曲げて物に引っかけ、スパイダーマンのように跳躍したり、腱を硬化させて刃物のように扱うこともできるのだ。なんか痛そうというか個人的にはぜんぜん憧れない能力だが、主人公はこの能力を使いつつ、自らの身体に起きた変化の真相を暴いていく…というのが大筋らしい。心臓のドナーは誰なのか? 街を騒がせる心臓強奪殺人犯との関連は? といった謎も次々提示されていく。要は新たなヒーローが誕生するまでの物語であり、妙にグロい能力ではあることを除けば正統派な物語展開とも言える。人体では不要の部位であるはずの長掌筋腱が武器として役立つ点、「心臓移植で記憶も移植される」というオカルトでしかない与太話になんとなく科学的な説明を付けてしまう点などはけっこう面白い。

 『サイファイ・ムーン』以来、この作者の実に10年ぶりの作品だが、以前のものと比べて文体が少々変化している。とりわけ読みにくいというわけではないのだが、作者のファンほど気になるかもしれない。

★★★(3.0)

 

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