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マイナスの気を絶って神に近づこう! 後半大失速するプロパガンダホラー-『ボルネオホテル』

『ボルネオホテル』

景山民夫/1993年/330ページ

小さな島に建つ古いホテルに泊まり合わせることになった九人の男女。吹き荒れる嵐が橋を奪い、通信の手段もない。館は完全に外界から閉ざされてしまった。――そして、最悪の夜が始まった。邪悪な霊が、プールを底無し沼に変え、家具を飛ばし、毒虫を操り、心と体を乗っ取ろうと襲って来るのだ。絶望の闇の中で死を待つのか、それとも――。これがホラー小説の原点だ。

(裏表紙解説文より)

 

 南国の古い木造ホテルに泊まることになった、国籍も立場も様々な9人の男女。モンスーンの襲来で大雨が降り、ホテルと外界を結ぶ橋は崩れて流されてしまう。そしてホテル自体にも得体の知れぬ悪霊が…という、オーソドックスな幽霊屋敷ものである。主人公の日本人カメラマン・戸井田、心理学を研究する女学生・アン、オーストラリア人のベンとスーザン夫妻とそのダウン症の息子・ドナルド、アホの日本人新婚カップル・昭宏と由利香、冷徹な目つきをしたインドの実業家・シン、マレー人の年老いたホテルスタッフ・ムハマドと、登場人物も誰が死んで誰が生き残るのかたいへん分かりやすい。

 序盤の雰囲気は悪くなく、国際色豊かなキャラクターと不穏な空気を醸し出すホテルの描写が期待を持たせてくれるのだが、起きる怪現象はプールの底から引きずり込もうとして来る手、ポルターガイスト現象で飛び回る家具、乗り移る悪霊とお決まりのもの。肉を喰らうムカデの大群はちょっと面白かったが、ゴシックな格調高さもナスティなお下劣さも足りておらず全体的に中途半端な印象。いちばん大活躍する強大なバケモノが「飛び回る棚」という時点で地味である。

 登場人物の中では赤毛のアンがとにかくインチキじみており、心理学とオカルトに詳しく、常に聖水と魔除けの塩を持ち歩き、結界を張る知識もあるチートキャラなので緊張感をだいぶ削いでいる。ラストは「悪霊に対抗するには“LOVE”だ!」という話になり、みんなでディズニーの「ハイ・ホー」の歌を歌って元気100倍、ダウン症の子供が光り輝いて炎を操り「過ちを償うべき場所に帰るがよい!」と絶叫すると悪霊が「ギャアアアアア」と悲鳴をあげて退散、最後はアンが「死後の人間の魂はマイナスの気だけではないので、プラスの気を高めれば神と呼ばれる存在に近くなれる」と説教をして終わり。参考文献には大川隆法の本がズラリと並んでいた。以上!

★★(2.0)

 

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