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ドラキュラ、青髭、ラスプーチン…欲望に生きた歴史人物10人の妖しく美しく血に塗れた生涯!-『きれいなお城の怖い話』

『きれいなお城の怖い話』

桐生操/1998年/239ページ

狂気、殺人、拷問、毒薬、悪魔、サディスト…きれいなお城には、恐怖がいっぱい。みずからの欲望と快楽のはてに、血塗られた歴史を作り上げた十人の悪女・怪人の姿を、浮き彫りにする。600人の娘を殺した伯爵夫人エリザベート・バートリ、倒錯の愛に生きたサド侯爵、美少年を誘拐し、肉体をむさぼり、あげくのはてに惨殺した同性愛者ジル・ド・レなどが登場する。

(「BOOK」データベースより)

 

 お城の話…とはあるが、実際に建築物としてのお城にまつわる内容ではなく、桐生操お得意の西洋残酷怪人物録である。それぞれのエピソードは、各人の生い立ちからその最期までをおとぎ話風(あるいは少々下世話なゴシップ風)にまとめてあり、大変読みやすい。

 「血に湯浴みする伯爵夫人」エリザベート・バートリ「残虐な串刺し公」ドラキュラ「ロシアを騒がせた怪僧」ラスプーチンといった、作者の著作ではもはやお馴染みとなった顔ぶれも多いが、もちろんそれだけではない。その意外と不器用な生きざまに作者の贔屓目が見える「倒錯の愛に生きた不遇の作家」サド侯爵、肖像画のあまりに儚げな美しさもこの運命を知れば納得の「父を惨殺した美少女」ベアトリーチェ・チェンチ、数百人の少年たちを“You来ちゃいなよ”したあげく惨殺した「美少年を愛した青髭男爵」ジル・ド・レといった有名どころは読み応えじゅうぶん。悪辣さではやや落ちるものの、尼僧たちを誘惑した罪で謀殺されたイケメン神父「悪魔に魂を売った男」グランディエ神父事件のスキャンダラスぶり、その回顧録でパリの人気者となった「社会への反抗を貫いた男」泥棒詩人ラスネールのキャラクターの濃さは現代でも話題となり得そうなもの。「バーデン・バーデンの白い貴婦人」オラミュンデ伯爵夫人「残虐なコキュの復讐」フィリッポ伯はエピソード自体は短めで知名度もそれほど高くないと思われるが、そのぶん残虐さが際立っており、よく出来たゴシック怪奇短編を読んだような気にさせられる。

 作者の歴史モノの中でもとっつきやすく、コッチ方面の歴史の基礎知識も得るのにもうってつけでオススメの一冊と言える。

★★★(3.0)

 

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