『遺品』
若竹七海/1999年/368ページ
失業中の学芸員のわたしに、金沢のホテルの仕事が舞い込んだ。伝説的女優にして作家の曾根繭子が最後の時を過ごし、自殺した場所。彼女のパトロンだったホテルの創業者は、繭子にまつわる膨大なコレクションを遺していた。その整理を進めるわたしは、彼の歪んだ情熱に狂気じみたものを感じていく。やがて起こる数々の怪異。繭子の呪い?それとも…。長編ホラー。
(「BOOK」データベースより)
自ら池に身を投げた天才女優・曾根繭子。彼女が最期の時を過ごしたホテル・銀鱗荘で、繭子の愛人にしてパトロンである創業者・大林一郎が遺した繭子関連のコレクションが見つかった。コレクションの一部を展示してホテルの売りにすることになり、学芸員である主人公は銀鱗荘へと派遣される。しかし整理を進めていくうち、ホテルでは妙な事件が次々と起きるようになり、繭子の幽霊を見たと証言する従業員も現れる。さらに繭子自らが書いた最後の戯曲とそのフィルムが発見されるが、戯曲の内容はホテルで起きた一連の事件をそのまま再現したかのようなものだった…。
物語は学芸員である「わたし」の一人称で進行する。簡潔かつ的確な情景・心理描写のおかげで、歴史あるホテルの風景、一癖ある従業員たち、控えめながらもぞっとする怪奇現象の数々、“繭子”に惹かれつつも自己喪失の危機に不安を隠せない「わたし」の心の揺れ動きなどがスイスイ脳内に収まっていくので、ページをめくる手が止まらない。作者の文章の巧さにはつくづく舌を巻く。ホテルにまつわるホラーは多いが、本作はホテルという舞台を最大限に活かしつつ、醜悪極まりない怪異の恐ろしさを描いた傑作だと思う。ただ、エピローグの展開はあまりにファンタジー過ぎてちょっと戸惑ってしまった。伏線はしっかり張られているのだが、空気感が違いすぎるせいかなお唐突感がある。
★★★★☆(4.5)