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霊能チャンネルが訪れた廃墟に壮絶な悪意が潜む。最高傑作巻を更新し続ける好シリーズ-『ホーンテッド・キャンパス 夜を視る、星を撒く』

『ホーンテッド・キャンパス 夜を視る、星を撒く』

櫛木理宇/2019年/320ページ

オカ研に芸能人がやってきた!アイドル系美少年の彼は、テレビ番組でも活躍する大人気霊能者。しかし力が落ち、引退を決意しているという。最後と決めた心霊番組の収録を手伝ってほしいと頼まれ、森司たちは手を貸すことに。ロケ地はあるホラー映画の撮影場所で、女優と子役、スタッフらが怪死した百貨店の廃墟。しかしロケ中、そこに閉じこめられた森司が経験した恐怖とは…。面白さを更新し続ける、奇蹟のシリーズ第16弾!

(「BOOK」データベースより)

 

 こよみを家に招いて「おうちデート」をすることになり、過去最大級に浮かれながら準備を進める森司。本屋で手料理の本を探していた彼は、有名な霊能力者タレント・両角巧と遭遇する。どうやら大学近くの廃墟で、ネット番組「霊能者タクミ」シリーズの撮影を行うらしい…。

 

 「第一話 累ヶ淵百貨店」-自らの霊能力が衰えてきていることに気づいた巧は、引退前の最後の仕事として心霊番組『怪談・累ヶ淵の怪。映画撮影中に無念の死を遂げた女優の霊が、百貨店の廃墟をいまもさまよう……』を撮影することにする。舞台となる大祥百貨店は、「累ヶ淵」を題材にしたホラー映画の撮影中、エレベーター落下事故により主演の捧小枝子、子役の千野玲衣を含む4人が死亡したという曰く付きの心霊スポットだった。オカ研を訪れた巧は、撮影が滞りなく進むよう、霊感のある森司たちにエキストラ参加してほしいと依頼する。撮影当日、巧の妹で売れないアイドルの両角花澄も急遽参加することになり、一行はスタッフとともに廃墟へ足を踏み入れる。だが、気づけばひとり、またひとりとメンバーが消えていく。怨念渦巻くこの地には、かつてないほど強大な“何か”が潜んでいた……。
 心霊スポットを訪れた撮影クルーが本当にヤバい目に遭うという、本シリーズではむしろ珍しかった王道展開。害意むき出しの霊現象に加え、とある人物の“悪意”が霊の目的とシンクロすることで事態はさらに悪化する。二転三転するラストも含め、いつもより豪華な2時間スペシャル版といった趣の、読み応えある中編である。

 

 「第二話 渇く子」-歯学部2年の稲生藤乃は、尼だった祖母が暮らしていた家でひとり暮らしを始める。だが浴室をリフォームして以来、痩せ細った子どもの姿をした「なにか」が怒りの表情でこちらを見つめるのを目撃するようになる。相談を受けたオカ研は、祖母がかつて「水餓鬼を見かけたが、嫌われてしまった」と語っていたことを突き止める。水餓鬼は常に渇きに苦しむ哀れな霊だが、尼であった祖母なら成仏させられたはず。では、怒りと悲しみの理由は何なのか…。
 飢えや貧しさの辛さは、時代が変わっても消えることはない。ささやかな謎解きをスパイスに、社会のひずみを真正面から描いた一編である。

 

  「第三話 赤珊瑚 白珊瑚」-法学部2年の林田萌奈から、元彼に持ち去られた赤珊瑚の珊瑚珠を取り戻してほしいという相談が舞い込む。萌奈の元彼・宗近壮悟は「ES個別指導塾」で講師のバイトを始めて以降、ブラックな勤務環境による過重労働ですっかり様子が変わってしまったという。別れを決意した萌奈だが、祖母の遺品である赤珊瑚と白珊瑚のうち片方を宗近が持ち去ってしまったらしい。「二つの珊瑚は決して離すな。離せば必ず不幸が起きる」――そんな言い伝えが萌奈の家にはあった。赤珊瑚の持ち主だったハツヱは、紡績工場での過労をきっかけに惨い最期を遂げたという。その頃、ES個別指導塾の横暴なバイトリーダー・五十里は、塾内に漂う異様な生臭さ、自身の激務、宗近の無断欠勤などのトラブルに追い詰められていた。さらにその頃、森司は、こよみとのおうちデート当日を迎え、緊張と不安に悶えているのであった…。
 第二話に続き、時代を越えて繰り返される人間の“業”が引き起こす事件を描く。弱者が社会に抱く悲痛な恨みに対し、大学生である森司たちにできることは決して多くない。それでもベストを尽くし、ほんの少しでも未来を明るくしようとする姿がまぶしい。

 

 ホラー、ミステリ、青春小説のマッチングが相変わらず素晴らしい。スケールの大きいイベント編の1話、切なくやるせなくも優しい2話、苦く重い背景の中で森司とこよみの仲がこれまで以上に微接近する3話と、個々の話も印象深いものばかり。解説文の「面白さを更新し続ける、奇蹟のシリーズ」という惹句は伊達ではない。

★★★★★(5.0)

 

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