『ゆがんだ闇』
小池真理子、鈴木光司、篠田節子、坂東眞砂子、小林泰三、瀬名秀明/1998年/349ページ
脳細胞までも凍らす、恐怖の連続…… ホラー・シーンに新たな局面を拓いた作家6人が、それぞれの“怖さ”を突きつめ、書きこんだホラー小説の競作。あなたはどれが一番怖い?(解説/三橋 暁)〈カドカワノベルズ「絆」改題〉
(裏表紙解説文より)
巻頭の3作は雑誌掲載作、残りの3作は書き下ろしという、半オリジナルアンソロジー。寄稿者の顔ぶれはかなり豪華である。恐怖度という点ではやや控えめな印象もあるが、それぞれの作家の持ち味が存分に発揮された短編が揃っている。
小池真理子「生きがい」-事故で息子と連れ合いを亡くした私は、アパートの管理人として孤独に暮らしていた。入居者の学生・ノボルが風邪を引いていると知り、かいがいしく世話を焼くうち、いつしか彼に亡き息子の面影を重ねるようになる…。急転直下のオチが鮮やかな一編だが、読み返せばさりげなく張られた伏線に気づいて感心してしまう。
鈴木光司「ナイトダイビング」-スキューバダイビングが縁で結婚した奈緒と高宏。だが近ごろ、子どもを望む高宏とその気のない奈緒との関係は、少しずつぎくしゃくし始めていた。ふたりは知人たちとともに真夜中のダイビングへ出かけ、夜光虫が漂う幻想的な海底を楽しむ。ところが、高宏がふと気づくと奈緒の姿が消えていて…。『仄暗い水の底から』などを始め、“水モノ”に定評のある作者らしい題材。ただ本作はサスペンス色こそ強いものの純粋なホラーではなく、結末はむしろポジティブである。ちょっとした海洋奇譚といった趣きだ。
篠田節子「子羊」-荒廃した外界から隔絶された“聖堂”で暮らす、アルファベットと番号で管理される少女たち。神の子と呼ばれる彼女らは、時が来ると「儀式」を経て他者と一体化し、完璧な生を得るという。儀式を目前に控えた少女・M24は、シスターに願いを問われ、かつて聖堂に来てくれた楽器を吹く少年に会いたいと答える。外の世界から連れてこられた少年は、M24に「儀式」の真実を語る…。今となっては王道過ぎるほどに王道な印象を受けるディストピアSF。正直あまり新鮮さはないのだが、後半の畳みかけるような展開と、これまた王道の結末は素直に楽しめる。
坂東眞砂子「白い記憶」-裕福な暮らしを送る千春は、夫・陽治との関係にどこか満たされないものを感じていた。そんなある日、留守番電話にかつての恋人・仁志との会話の一部が録音されていることに気づく。さらに、パート先には仁志の名前が記された花束が届く。千春と陽治の共通の知人だった仁志は、事故で意識不明のままずっと昏睡状態にあるはずだった。長い眠りから目覚めた彼が、自分に何かを伝えようとしているのか。病院に問い合わせた千春は、驚愕の事実を知る…。困惑と疑念が絡み合うなか、細やかに描かれる主人公の心情が印象に残るミステリ短編。
小林泰三「兆」-フリーライター志望の蒲田なえ子は、「教師に殴られた女生徒が学校を飛び出し、工事中のマンションから飛び降りた」という新聞記事に違和感を覚え、当の中学で取材を試みる。クラスメイトによれば、飛び降りた宇野直美は執拗ないじめを受けていたという。首謀者だった生徒・本多のノートには、「兆(きざし)」という人ならざる存在と化した直美に付きまとわれる恐怖が綴られていた。驚くなえ子だったが、事態はさらに混迷を極めていく…。緻密な構成とトリックで、作中人物以上に読者を翻弄する異色作。フリーライター志望と言いつつ実態はほぼ無職に近いなえ子の、しみったれた取材ぶりが笑いを誘う。
瀬名秀明「Gene」-大学院博士課程3年の映子は、同じ研究室の河村から「Gene」というシミュレーションゲームを渡される。実写さながらのグラフィックで描かれるそのゲームは、雪に覆われた高原で発見された、巨大な悪魔の遺体のDNAを解析するというリアルな内容だった。研究の傍ら「Gene」に没頭していく映子だったが、彼女にゲームを勧めた河村は、いつの間にか研究室から姿を消していた…。いかにもこの作者らしいサイエンスホラー。リアルすぎるゲームが実は単なるゲームではなかった、という展開自体に目新しさはないが、背後に控える壮大な“黒幕”の存在には素直にワクワクさせられる。ちなみに作中に登場する『レミングス』『MYST』といったゲームや、『アフター0』という漫画はいずれも実在する作品である。
★★★(3.0)

