『樹海』
吉村達也/2003年/374ページ
高校二年生の村木ルイは、暗い森をさまよう夢に繰り返し悩まされていた。その悪夢には結末がない。記憶を失うほどの凄まじい恐怖体験が原因のため、ルイの深層心理が最後を見ることを拒んでいるのだ。唯一の手がかりは青白く光る表紙を持つ『樹海』という名の絵本…。やがてルイは、超能力者の恋人・神保透とその姉・真美の協力により、真相を探し求め、実在の森青木ヶ原の樹海へと向かう。そこで待つ運命も知らず!夜光るカバーが、あなたを幻想世界に誘う。
(「BOOK」データベースより)
女子高生の村木ルイは、3歳の自分が樹海をさまよう悪夢に繰り返し悩まされていた。真っ暗な森の中、樹の幹に数字の“ゼロ”が無数に浮かび上がる奇妙な夢を…。恋人の大学生・神保透は、ルイが幼いころ実際に樹海で迷子になったのではないかと推察する。私は、子どものころの記憶を封じ込めているのだろうか? シンデレラ、赤ずきん、ヘンゼルとグレーテルといった、誰でも知っているはずの童話をまったく覚えていないことに気づき、ルイは自分の過去に不安を抱きはじめる。
そんな折、親友の栗田杏奈が泊まりに来た夜、ルイは樹海の中で奇妙な老婆と出会う夢を見る。老婆は、ルイが“自殺する人間の未来を予知する能力”を持っていると告げる――。目を覚ましたルイのそばには、うなされる彼女を心配して見守っていた両親と杏奈がいた。だがルイの目には、父親が首を吊った腐乱死体の姿に見えていた。
自分の過去にはどんな秘密があるのか。母方の祖母がアルツハイマーで入院していると知ったルイは、その事実を両親から知らされていなかったことを訝しみつつ、祖母に会いに行く。初めて見る祖母の顔は、夢の中の老婆とそっくりだった。さらに祖母の部屋には、シンデレラや赤ずきん、ヘンゼルとグレーテルといった童話の本が置かれている。この奇妙な符合は何を意味するのか。ルイ、透、杏奈の3人は、すべての答えを求めて樹海へと足を踏み入れることにした…。
王道ホラーに見せかけてからの急激なドリフトカーブで読者を置き去りにした珍作『卒業』の続編だが、話自体は独立しているので今作から読み始めても問題ない。前作の終盤でなんだかすごいことになっていた少女・神保真美は時おり不穏な様子を見せるものの、神保透をサポートするわりとしっかりした姉として登場している。
「ホラーらしいホラーではない」という点も前作と共通しており、どちらかといえばSF寄りのミステリとでも言うべき内容だ。ルイの夢に現れた老婆が“電磁波と脳の記憶”について延々50ページ近く語り続ける場面などに顕著だが、登場人物が作者の意見の代弁者にしか見えない箇所が少なからずある。個人的にあまり好みの展開ではなく、主張の中身に関係なくどこか冷めた目線で読んでしまう。いまいち効いていない伏線も目立つし、正直キレは悪い。とはいえ、途中が多少グダっても、クライマックスできっちり盛り上げてくれるのがこの作者の持ち味。終盤のあまりに壮絶な“誕生”シーンと意外なほどにポジティブな結末は、それまでのトンチキさを差し引いてもお釣りがくるほどだ。
表紙は蛍光塗料が使われており、樹海の中に“ゼロ”が浮かび上がるという仕組みになっている。…らしいのだが、私が持っている初版本はもう全然光らない(笑)。それにしてもこの表紙、樹海(Dark Forest)という書名だけで5か所、作者名と4か所に配置されているし、だいぶ攻めたデザインである。ちなみに、KADOKAWAをはじめ一部のサイトに載っている本書のあらすじ、「奇妙な夢にうなされ、飛び起きたルイは、右スネの古傷が、夢と同じ場所であることに気づく。そんな頃、同級生が青木ヶ原樹海で死を遂げた。真相を探し求め、樹海へと向かうルイ。そこで待つ運命も知らずに……。」という内容は完全にウソである。
★★☆(2.5)

