『ポゼッション』
ピーター・ジェイムズ/1993年/490ページ
アレックスは、著作権代理店を営むキャリアウーマン。息子が死んだ。旅行先での突然の事故だった。その日以来、彼女の周囲では不気味な心霊現象が続発する。死んだ息子が彼女に何かを訴えようとしているのだ。徐々に息子の霊に追いつめられていくアレックス。息子の過去を探るうちに、生前の彼がひた隠しにしていた怖ろしい事実が明かされてゆく――。
英国ホラー小説界の新鋭がスピード感覚溢れるタッチで描く。恐怖が駆け抜ける傑作長編。
(裏表紙解説文より)
著作権代理店を経営するアレックスは、ケンブリッジ大学に通う息子フェビアンと二人暮らし。ある夜、フランス旅行中だったはずのフェビアンが帰宅し、「お休み」と言って自室へ入っていった。ところが翌日、警察からの連絡で、昨夜の時点でフェビアンは交通事故で死亡していたことが判明する。
別居中の夫・デヴィットとともに悲しみに暮れるアレックスだったが、やがて奇妙な心霊現象が立て続けに起こり始める。パソコンのモニターに浮かび上がった「助けて、母さん」という文字を目にした彼女は、死んだフェビアンが自分に助けを求めているのだと確信。友人の科学者・フィリップや教会の副牧師が難色を示すのを尻目に、霊媒師フォードとの面会を決意する。
遺品整理を進めるなか、フェビアンの学友・オットーが意味深な態度を見せたり、元恋人・キャリーの行方が知れないことが判明したりと、不穏な事実が次々と明らかになる。そして訪れた降霊式の日。儀式を始めたフォードは激しく動揺、かつ消耗し、キャリーがすでにこの世にいないこと、そしてフェビアンがこの世へ戻ろうとしていることを告げる。いったい、フェビアンは何をしようとしているのか。息子の“真実の姿”を知るにつれ、アレックスは憔悴していく…。
現在では「警視グレイス」シリーズで知られる、ピーター・ジェイムズの初ホラー作品。物語はテンポよく進み、多彩な登場人物が絡み合う読み応えのあるもの。仕事を辞めて農業に傾倒するデヴィット、霊媒師の父が狂死した反動で科学の道を志したフィリップ、胡散臭さを感じさせつつも実は誠実でユーモアもあるフォードなど、脇役たちも個性的で好感が持てる。主人公アレックスは時に不安定に映るが、それも息子の死と度重なる怪異に追い詰められているからで、心情には十分な説得力がある。
霊との交信や憑依現象(ポゼッション)といったオカルト要素に加え、ひとつ謎が解けるたびに新たな謎が生まれる構造は、ミステリとしても読み応えがある。ただ物語がスピーディに進む一方で、ホラーとしての盛り上がりはかなりスローペースである。怪奇現象の内容も、遺品のトランクが突然落ちるだの、息子が贈ってくれた薔薇が車のワイパーに挟まっているだの、トイレに湿気がこもるだの、少々地味なものが多い。そのため前半は、ミステリ的な面白さとオカルト描写の退屈さが相まってプラマイゼロ、どうにも「普通」な印象を受ける。が、真相に迫るにつれ恐怖がエスカレートしていく、中盤以降の展開は悪くない。隠されていた秘密、知りたくなかった事実が暴かれていく“ヒトコワ”系の恐怖に加え、控えめだった超常的恐怖もついに牙を剥きはじめる。終盤、牧師たちが悪魔祓いを執り行うシーンなどは相当に怖い。いったい何が起きるのか…というと、「何も起こらない」のである。祈りが事務的に捧げられ、儀式はつつがなく終わり、牧師たちは何事もなく帰っていく。そしてその直後、主人公の前に決定的な恐怖が訪れる。神や信仰が何の救いにもならないことを突きつける、絶望的な瞬間だ。
最終盤は盛り上がるものの、そこへ至るまでにだいぶ時間がかかるため、万人向けとは言い難いところはある。それでもホラーミステリとしての完成度はなかなかのもので、作者の力量は感じ取れると思う。
★★★☆(3.5)

