『粘膜大戦』
飴村行/2026年/317ページ

大戦下、各地の戦況が膠着し、苦境を強いられる帝国陸軍。起死回生を図るべく軍部が画策したのは、占領下にある東南アジアの小国ナムールの王族アロ族のマテル姫に一斉蜂起の号令をかけさせることだった。だがそれには姫の仮面を開ける鍵――「久遠ノ爪」が必要。密命を帯びた堀川美樹夫大尉は、鍵の捜索を開始するが、そこには想像を絶する血みどろの戦いが待っていた……。カルト的人気を誇るホラー、「粘膜」シリーズ第6弾!
(Amazon解説文より)
「序章 弁柄の蜥蜴」-野戦捜索隊の堀川美樹夫大尉は、精鋭揃いの部下たちと爬虫人の通訳を伴い、ゲリラ征伐へと向かっていた。集落を制圧したのち、救出した捕虜の中に「黄金の仮面」をつけた子どもの姿を見つけ、美樹夫は思わず言葉を失う。この子どもこそ、軍が探し求めていた「アロ族の貴人」ではないのか…。
「第一章 銀鼠の男」-製糸工場の寮で働くはずだった孤児の少女・樅田キノブは軍人に連れられ、月ノ森総合病院へと移送される。そこで彼女を待っていたのは未来視の能力を持つ機械兵士、キセキ・サンガタ改こと戸田繁之だった。頭部機能の損傷と引き換えに未来視を得た戸田だが、その能力は近ごろ曇り始めていた。原因を探る陸軍は、戸田が発信した電文にあった「樅田キノブ」という名前に注目し、彼女こそが事態打開の鍵だと考えたのだ。24時間以内に戸田の能力が回復しなければ射殺すると通告されたキノブは、総合病院の給仕・徳一とともに策を練る。頭部を損傷した戸田は、完全にキノブに恋をしているようだった…。
「第二章 鉄黒の犬」-野島竜也二等兵は、ナムールの拠点を行き来する集配人だった。柴田軍医からアオボタルという昆虫の採集を、津田伍長から軍用犬「道節」の移送と密造酒・ヌベの調達を命じられ、砦へと向かう野島。道節の助けもあり、危険な道程を越えて到着するが、出迎えた志賀少尉はいきなり彼に銃を向ける。ヌベにアオボタルを漬け込むと、ムンベという酒になる。ムンベを飲んだ者は強烈な幻覚を見、「神と友達になる」のだという。柴田軍医と津田伍長は、遠回しに志賀少尉が知るムンベの秘密を探らせようとしていたのだ。スパイの疑いをかけられた野島は、さらなる窮地へと追い込まれていく…。
「第三章 鉛白の女」-堀川大尉が救出したアロ族の貴人・マテルは、陸軍の武智大佐と交渉に臨む。ナムールの少数民族であるアロ族が日本軍に協力すれば、戦局を大きく変えられる――武智はそう考えていた。マテルが提示した条件は、黄金の仮面を開く鍵「久遠の爪」の入手、そして執事である爬虫人・侘助と婚姻の儀を執り行うことだった。やがて迫る、マテルの婚姻の日。堀川大尉、正気を取り戻した戸田、そして戦地から戻り入院していた野島は、行動をエスカレートさせていく武智をよそに、この戦争を終わらせるための秘策を練っていた…。
「終章 瑠璃紺の虫」-食料を保管している軍の地下倉庫に、「地底人」が迷い込んでいるという。兵士たちがほぼ出払った中、柴田軍医はただひとり倉庫へと向かう。目の前に現れた地底人に向けて銃を発砲するも、相手は驚いたような顔をするだけだった。そして…。
「粘膜」シリーズのキャラクターたちが一堂に会する、まさに集大成にしてスペシャル劇場版のような一作である。登場するのは、人情味あふれる軍人・堀川美樹夫(『粘膜蜥蜴』)、元トッケー隊員・野島竜也(『粘膜探偵』)、機械化された改造兵士・戸田繁之(『粘膜戦士』)、野心家の大佐・武智正之(『粘膜探偵』)、死体好きの老人・徳一(『粘膜蜥蜴』)、沼に棲む河童・モモ太(『粘膜人間』)といった面々。本作初登場のド根性少女・樅田キノブは、ふてぶてしさと利発さ、そして圧倒的な生命力に満ちたキャラクターで実に頼もしい。意外なほどに常識人として年長者を務める徳一とはいいコンビである。
ただし、「過去キャラ総出演!」ものにありがちな、「せっかく出たのに出番が少ない」「キャラが変わりすぎている」「むしろなぜこのキャラが出ていないのか」といった問題点もわりと目立つ。とりわけ、時系列的には明らかに死亡しているはずのとあるキャラクターが元気に活躍している点については、さすがに首を傾げてしまう。パラレルワールドなのか、それとも影武者だったのか。本作で「その後」が描かれたことで、あえて余白として残されていた結末の余韻が薄れてしまった点も気になる読者はいるだろう。
物語はナムールをめぐる戦争の終結、そして日本の敗戦を示唆する形で幕を閉じ、「粘膜」シリーズの“第一部完”を思わせる内容となっている。凄惨な戦いを繰り広げてきた軍人たちは表舞台を去り、「日本の未来にとって必須の人材」へとバトンが渡される。ぐちゃぐちゃ、どろどろ、やりたい放題を尽くしてきた狂乱シリーズの締めとしては賛否も分かれそうだが、個人的には好印象。願わくば「次のバトン」を受け取った、新たな「粘膜」の物語も見届けていきたいものだ。
★★★★(4.0)
