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謎が解けるたび事態が悪化。戦地よりもグロテスクな、どろどろの欲望渦巻く怪事件!-『粘膜探偵』

『粘膜探偵』

飴村行/2018年/320ページ

戦時下の帝都。14歳の鉄児は憧れの特別少年警邏隊に入隊した直後、先輩のとばっちりを受け謹慎処分となってしまう。汚名返上に燃える彼は、巷で噂の保険金殺人事件を解決するため独自調査に乗り出すが…。軍部の思惑、昏々と眠る老女、温室で栽培される謎の植物、行方不明の少女ー。すべてが交錯する時、忌まわしい企みが浮かび上がる。暴力と狂気が渦巻き、読む者の理性を抉り取る最凶の粘膜ワールド、6年ぶりの新作!

(「BOOK」データベースより)

 

 14歳の須永鉄児は、憧れの「トッケー隊」こと特別少年警邏隊への入隊を果たす。勇猛果敢にして聡明な班長・久世のもと、街に潜む不良分子の排除に励む鉄児だったが、警邏中に久世が罵倒した警官が警察署長の息子だったことが判明。同じ班の久世、江森、野島とともに、鉄児も謹慎処分を受けることになってしまう。
 鉄児は元教授の父親、昏睡状態に近い寝たきりの祖母、そして嘘がつけない爬虫人の女中・影子と暮らしていた。父親は軍の武智大佐と何らかの密約を交わしており、鉄児は父とともに、近く東南アジアの戦地・ナムールへ移住する予定になっていた。父と折り合いが悪く、日本に残って練兵学校へ進みたい鉄児は、指名手配中の殺人犯を捕らえて表彰された久世のように、大きな事件を解決して名を上げようと考える。
 その頃、町では保険金殺人事件の噂が広まっていた。自殺した女学生・小暮朋代の両親が、彼女に多額の保険金を掛けていたというのだ。朋代は本当に自殺だったのか、それとも殺されたのか。トッケー隊に入りたい八百屋の丁稚・トン吉、久世班の汚名を返上したいという江森と協力し、鉄児は朋代の周囲を独自に調査し始める。
 果たして朋代の死の真相は。鉄児の祖母は、なぜ昏睡状態に陥ったのか。祖母が繰り返し呟く「る」「ず」「み」「ま」「い」「く」という言葉に意味はあるのか。武智たちが須永邸に持ち込んだ、ナムール産の植物「グズルウ」の正体とは。そして、父親と武智のあいだで交わされた密約の内容とは。謎が少しずつ明らかになっていくなかで、鉄児は究極の選択を迫られる。それは自らの手で久世、江森、野島を殺さねばならないという命令だった…。

 

 おなじみの戦記物パートが存在しない点や、主人公が裕福でありながら家庭の内情がドロドロしている点など、全体の雰囲気は『粘膜戦士』収録の短編「柘榴」に近いかもしれない。グロテスク描写は控えめで、満を持して(と、言っていいのだろうか)再登場する「髑髏」の描写も、かなりおとなしくなっている印象。『粘膜蜥蜴』『粘膜兄弟』のような総合エンターテインメント性を期待すると、やや肩透かしかもしれない。
 かといってタイトル通りの本格ミステリかというと、調査らしい調査が始まるのは物語の後半に入ってからで、正直なところ「探偵」的な活躍はそれほど多くない。しかし、散りばめられた謎の数はシリーズ屈指であり、それらが怒涛の勢いで回収されていくクライマックスの疾走感はさすがの一言。
 賢すぎて言動がいちいち厭味ったらしい久世、嘘がつけなさすぎて毒舌の域に達している影子、うさん臭い関西弁キャラのテンプレのような武智など、登場人物たちは相変わらずアクが強め。血や笑いの量こそ従来のシリーズより抑えめだが、先が気になって仕方がないリーダビリティの高さはまったく損なわれていない。正直、刊行時に読んだときは「ブランクのせいか『粘膜』もヌルくなったもんだなあ」と思ったのだが、今回改めてシリーズ一気に通読してみると「雰囲気は違えど間違いなく『粘膜』だ!」と感銘したのでした。

★★★★(4.0)

 

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