『粘膜兄弟』
飴村行/2010年/480ページ
ある地方の町外れに住む双子の兄弟、須川磨太吉と矢太吉。戦時下の不穏な空気が漂う中、二人は自力で生計を立てていた。二人には同じ好きな女がいた。駅前のカフェーで働くゆず子である。美人で愛嬌があり、言い寄る男も多かった。二人もふられ続けだったが、ある日、なぜかゆず子は食事を申し出てきた。二人は狂喜してそれを受け入れた。だが、この出来事は凄惨な運命の幕開けだった……。待望の「粘膜」シリーズ第3弾!
(「BOOK」データベースより)
「第壱章 双性妄獣」-戦時下の日本。双子の兄弟・須川磨太吉と矢太吉は親を亡くして以来、“フグリ豚”の養殖で生計を立てていた。同居人はフグリ豚のエキスパートにして、牝豚しか愛せない奇人・ヘモやんだけ。そんな世間知らずの双子が、カフェーで働く女給・ゆず子に恋をする。彼女の気を引こうと悪戦苦闘する双子を、当初は冷ややかな目で見ていたゆず子だったが、ヤクザに絡まれていたところを磨太吉に助けられたことをきっかけに、次第に心を開いていく。一方、矢太吉のほうはデートでの大失敗や、幼少期から彼の前にだけ現れる怪異「黒助」による執拗な暴行など、受難続きの日々を送っていた。そんな折、磨太吉に痛めつけられたヤクザの親分・城田から、「ゆず子を預かった」という脅迫状が届く…。
「第弐章 灼熱戦線」-徴兵された磨太吉と矢太吉は、歩兵として東南アジアの戦地・ナムールへ送られる。サディスティックな小隊長・澤田に目をつけられた双子は、「犬ッコロ一号」「犬ッコロ二号」という屈辱的な仇名をつけられ、過酷な日々を強いられる。しかし反日ゲリラの襲撃により、彼らが駐留していた飛行場建設地は壊滅。ゆず子から「何としてでも生きて帰ってきてほしい」と懇願されていた磨太吉は、矢太吉を連れて逃走を決意する。敵前逃亡が発覚すれば銃殺、ゲリラに捕まれば凄惨な拷問の末に死が待っている。絶体絶命の状況に陥った双子の前に、爬虫人〈ヘルビノ〉の子供が現れる…。
「第参章 憤激亡者」-犠牲を払いつつも、彼らはなんとか日本へ帰還する。爬虫人の子供・亀吉、ヘモやん、そしてゆず子と共に新たな生活を送る磨太吉だったが、平穏な日々はなかなか訪れない。組長の敵討ちを果たさんとする城田組の舎弟・ポン太からの脅迫。双子の父を自殺に追い込んだ詐欺師・村木の出現。そして、磨太吉の人生にとって最大の障壁となる男との対峙が近づいていた…。
アクの強いキャラクターたちが冒頭から窮地に立たされる第壱章、ゲリラと爬虫人と怪生物が跋扈するナムールで地獄絵図が展開される第弐章、そして提示されてきた謎や突拍子もない出来事が一気に収束し、予想外の結末へと至る第参章。物語の構造自体は『粘膜蜥蜴』と共通しており、リーダビリティの高さも健在だ。
主人公はあまり学のない青年・磨太吉で、ほぼ全編彼の視点を通して物語は進む。磨太吉は双子の弟・矢太吉とは見た目も中身も瓜二つだが、ほんの少しだけ幸運に恵まれている。その「ほんの少し」の差が、兄弟の運命を大きく、本当に大きく分けていくのだから、何とも皮肉である。
個性的という言葉ではくくれないほどに個性的なキャラクターの濃さは前作以上で、磨太吉と矢太吉、それにヘモやんを加えての会話はほとんどコントである。冷淡に見えて情の深いゆず子、爬虫人ならではの底知れなさと素朴さが同居する亀吉も好キャラクターだ。“フグリ豚”という下ネタ以外の何物でもない家畜ですら、妙に愛着が湧いてくる。ナムール編で登場する澤田も、分かりやす過ぎるほどの軍人像で強烈な存在感を放つ。『粘膜蜥蜴』の富蔵や徳一へも言及されるし、『粘膜人間』に登場した神のごとき怪異・キチタロウ(吉太郎)が重要な役どころで再登場するなど、シリーズファン向けの小ネタも見逃せない。
頻出するグロ描写や下ネタも含め、全編を通して実に愉快な一冊だが、ラストはとにかく圧巻。一抹の寂しさ、理不尽な高揚感、諦めと納得と呆れが混在する前代未聞の幕引きである。『粘膜蜥蜴』に勝るとも劣らない傑作。
★★★★★(5.0)

