『廃校教師』
三浦晴海/2025年/336ページ
先生、あなたはどこから来たのですか?
長時間勤務、休日返上の部活指導、保護者からのクレーム、無気力な教師……現代の学校問題をすべて抱える市立中学で、衆人環視の中、体育教師が変死した。あり得ないほど首が伸びきった異常な遺体と、その後も続く学校関係者の不気味な悶絶死。若手教師の保穂は、赴任間もない理科教師の海老原の言動に怪死との関係を疑うが、調べてみると、なんと、彼が赴任前に勤務していたという学校は……存在しなかった。歪んだ教育が生み出す闇を描く、社会派ホラー。
(Amazon解説文より)
香坂保穂は、市立七岬中学に勤める国語教師。一見、どこにでもある平穏な学校に見える七岬中だが、実際は過剰な勤務形態と、事なかれ主義から生じる同調圧力によって、教師たちは疲弊しきっていた。新任の理科教師・海老原は業務改革の必要性を訴えるが、ベテラン教師たちは彼の言葉に耳を貸そうとはしなかった。そんな折、野球部顧問を務める体育教師・斎賀が、校庭で急死する事件が起こる。副顧問の海老原を叱責している最中、突然もがき苦しみだし、その場に倒れたのだという。さらに「死の直前、斎賀の首はあり得ないほどに伸びていた」という不気味な噂まで流れ始める。
海老原は香坂に対し、「自分が斎賀を殺したようなものだ」と強い後悔の念を打ち明ける。また、同僚が亡くなったにもかかわらず、業務が増えることだけを心配しているような職員室の空気が恐ろしいとも…。日々の過酷な業務に疲れ果て、教師としての初心を忘れかけていた香坂も、海老原の真摯な姿勢に心を動かされ、学校改革に前向きに関わろうとするようになる。
しかし、事件はそれで終わりではなかった。海老原が担任するクラスの生徒が、斎賀と同様に首が伸びた状態で怪死する。教員たちの間に不穏な緊張感が漂い始め、やがて海老原を糾弾する怪文書が校内に出回るようになる。怪文書によれば、海老原は過去の経歴が一切不明で、犯罪歴があると噂されているという。やがて香坂は、海老原が前任していたとされる宮幟中学が、すでに廃校になっている事実を知る。彼は廃校から赴任してきたとでもいうのか? そして、校内ではさらなる悲劇が起こり…。
学校を舞台にしたホラー作品だが、本作でスポットが当たるのは生徒ではなく教員たちである。表面上はうまく回っているように見えながら、その実態は過剰勤務を前提とした自転車操業状態…。そんな厭なリアルさが胸に刺さる。もちろん、現状に不満を抱く教師もいれば、改革を好まない教師もいる。彼らの言動や心情の描き方も戯画的ではなく、実に生々しい。
主人公の香坂もまた、不登校生徒への対応、いじめ問題、モンスターペアレントへの対処など、どこの中学校でも起こりうるトラブルに追われ続けるうちに疲れ果て、いつしか職員室の空気に「同調」しかかっていた側の人間である。そんな彼女が、気弱ながらも芯の強い海老原と出会ったことで少しずつ変化していく過程は、教師ドラマとして見ても並以上に読みごたえがある。
本作には超自然的な要素も登場するが、その怪異の正体は驚くほどオーソドックスだ。怪異そのものよりも、「息が詰まりそうな職員室の雰囲気」にこそホラーを感じる読者も多いだろう。職に就いている限り永遠に逃れられない、「責任」や「人間関係」という名の呪縛。呪縛から逃げようとした者は、新たな呪縛そのものと化してしまった。生徒はいずれ学校を去るが、教師は学び舎で学び続けなければならないのだ。
個人的には、著者のこれまでの作品の中でもトップクラスで好きな一冊。ラストまで読み終えたあとには、ぜひ「前奏」を読み返してみてほしい。
★★★★☆(4.5)

