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猫目小僧の誕生を描くエピソードゼロ&不思議な読み心地の異色作を収録-『ゾク こわい本10 心の闇/猫目小僧3』

『ゾク こわい本10 心の闇/猫目小僧3』

楳図かずお/2026年/320ページ

楳図かずお全巻監修の 「ゾク こわい本」シリーズ完結。

海沿いの村で年老いた家族と暮らす美々が取り憑かれてしまったモノは、仲間を呼び、大きな災害を引き起こす妖怪だった――居場所のない者同士、猫目小僧の世話をしていた女性を襲う運命が悲しい「妖怪水招き」。観音様にお願いをすれば、必ず叶うと評判の寺の屋根裏に住み着いた猫目小僧が、“ご利益”のおぞましい正体を目撃してしまう「妖怪千手観音」など5篇。どこにも属さない孤独な猫目小僧の眼差しが、人の心に巣食う闇を照らし出す。

(Amazon解説文より)

 

 「妖怪水まねき」-奈良県のとある山奥で、この世に生を受けた猫目小僧。生まれてすぐに天涯孤独の身となった彼は、仁王像を崇める海沿いの村にたどり着く。村人たちから迫害を受けるも、心優しい娘・美々に助けられて命をつなぐ。だが海岸で拾った不思議な石に取りつかれた美々が仁王像を壊してしまったため、津波を呼ぶ妖怪・水まねきが復活してしまう…。これまで描かれていなかった猫目小僧誕生の秘密が明らかになるが、特に話の本筋とは関係なかったりする。水まねきは自分たちのいる場所に津波を呼ぶ妖怪。津波の被害を拡大させるため、標高の高い場所に行きたがる性質を持つ…という妖怪ならではの邪悪な特徴が面白い。まったく救いの無い悲惨なストーリー、勇ましく水まねきに立ち向かうも瞬殺される吾郎の兄など、見どころの多い傑作。

 「妖怪千手観音」-古くから伝わる千手観音像を崇める尼僧・春香は、「千手観音にすがれば願いが叶う」と村人たちに説く。ある日、貧しい農民が農具を買いたいと祈願すると、どこからともなくお金が降ってきた。喜ぶ農民だったが、千手観音を名乗る異形の存在が現れ、「願いを叶えた代わりに子供の命をよこせ」と迫る。その現場を見た猫目小僧は、真相を暴こうとするが…。無数の手で蜘蛛のように這いまわり、村人の生き血を啜る妖怪千手観音の禍々しい姿が強烈なインパクトを放つ。オチは一捻りが効いているが、千手観音が強すぎて倒し方を思いつかなかったようにも見える(笑)。

 「大台の一本足」-山の中で見つけた、木に刺さっていた釘が猫目小僧の身体の中に入り込んでしまう。それからというもの、妖怪「大台の一本足」が猫目小僧の前に現れるようになり、「夏夫という少年が昆虫を殺すのを止めないと、お前も夏夫も死ぬことになる」と告げる。裕福な家に暮らす夏夫は、標本を作るかたわら、関係のない昆虫も簡単に殺す残酷な性格の持ち主だった…。釘の化身妖怪・一本足と、恨みを持つ昆虫たちが猫目小僧を一方的に利用して復讐を果たすという、なんだか複雑な話。大台の一本足は‟一本だたら”という呼び方のほうが一般的かもしれない。

 「約束」-息子が産まれて上機嫌な父親は、蛇が蛙を丸呑みにしようとしているのを見て「今日はめでたい日だ、蛙を助けてやってくれ」と蛇に頼む。「代わりにこの子をやるぞ」と告げると、それを聞き届けたかのように蛇は姿を消した(なんでそんなことを言ったんだろう)。息子はすくすくと成長するが、彼の前に蛇のような顔をした不気味な男が現れるようになり…。「蛙の恩返し」系の、よくある民話の亜種パターン。描き加えられたというラスト2ページが大迫力。同じく加筆された冒頭の2ページはよく意味がわからないが。

 「ともだち」-モトムと鉄司はいつもいっしょに遊ぶ親友同士だった。だが鉄司にほかの友人ができ、モトムと遊ぶ時間が減ってしまう。嫉妬を募らせたモトムは鉄司を海沿いのほら穴に突き落とし、そのまま立ち去ってしまう。モトムの家の屋根裏で暮らしていた猫目小僧は、モトムの様子がおかしいことに気づくのだが…。少年の純情が思わぬ凶行に発展するサスペンスホラーかと思いきや、予想外の真実が明かされる。「猫目小僧」シリーズの中でも異彩を放っている一編。

 

 「こわい本」シリーズも、本書で真の完結を迎えた。「ゾク」も全10巻、なんとも豪華なボーナストラックだったと思う。ラストの巻末企画「UMEZZ写真館」は‟グワシ”特集でした。

★★★(3.0)

 

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