『粘膜黙示録』
飴村行/2026年/256ページ
「MANGA家になる!」と大風呂敷を広げて歯科大学を中退したものの、やることなすこと上手くいかず、気付くと人生の泥沼にはまり込んでいた著者。派遣工として癖のありすぎる人々に囲まれ、「持てる者」たちへのひがみ、妬み、怒りを充満させる――。やがて一念発起して『粘膜人間』でホラー作家としてデビューを果たした著者が、現代版『蟹工船』ともいえる最悪の時代を振り返り、逆恨み精神満載で綴った抱腹絶倒のエッセイ!
(Amazon解説文より)
「粘膜」シリーズ最新作『粘膜大戦』と同時刊行された、作者・飴村行のデビュー前の日々を綴る体験記。角川ホラー文庫でこうしたエッセイが刊行されるのは非常に珍しい(いちおう言っておくと、「作者を主人公にした私小説風のホラー」のようなメタな仕掛けがあるわけではない)。
歯科大学を中退し、プロのMANGA家(世界進出を前提にしていたため英字)を目指していた28歳の飴村行。必死に描き上げた原稿を編集部に持ち込むも、速攻で突き返され意気消沈。その後の約10年に渡る派遣工時代を中心に、癖があり過ぎる周囲の人々のエピソードが語られている。むろん著者自身も‟癖があり過ぎる人”のひとりであり、自分のことを棚にあげつつも、世間へのやっかみや僻みを隠そうとしない。著者にとっては「くすぶり続けていた暗黒時代」とも言える時期だが、深刻さはあまりなく、常軌を逸したトンチキエピソードのおかげでつい噴き出してしまう。ローソン籠城事件(第3話)、うっかり税金払い忘れてサシオサエ事件(第9話)あたりは本当にヒドいと思います。いちばん筆が乗っている(ように見える)のは中年のオッサンたちの奇行の数々(第4話のムーさん、第6話の畑野、第8話のタノやん、第11話の八島)で、悲惨なオッサンほど優れたエンターテインメントは無いのではと思わせるほど。
誤解を恐れずに言ってしまうが、本書で描かれている飴村行の姿は、‟あの「粘膜」シリーズを書いた作者”として想像できる人物像「そのまんま」なので逆に驚いてしまう。「粘膜」の下種さと純粋さが交じり合ったキャラクターたち、残酷さと笑いが両立するストーリーを描けるのは、この経歴とこの観察眼を持つ飴村行でしかあり得ない。
元は文春文庫で刊行されており、表紙や一部デザイン以外はほぼ同じ内容である。ホラー作家のエッセイと言えば、倉阪鬼一郎が校正者時代に書いた『活字狂騒曲』もメチャクチャに面白い1冊だった。自らの奇人ぶりをある程度自覚している作者が、自分以上の奇人たちの生態をつまびらかに描くという点では本書と共通するスタイルである。こちらもどこかで復刊してほしいものだ。
★★★☆(3.5)

