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連続殺人鬼はかつての戦友か? 遺体に残されたトランプが忌まわしい記憶を呼び覚ます…-『ココ』

『ココ(上)』

ピーター・ストラウブ/1993年/534ページ

その名はココ。
残忍な手口でつぎつぎと人を殺し、知るものの恐怖を呼び覚ますもの。
マイケル・プールは戦友たちと再会するために、ベトナム帰還兵のパレードに参加していた。再会の喜びとお互いの無事を確認しあったのも束の間、集まった四人は、ココと名乗る連続無差別殺人犯のことを話し始めた。
未曽有の狂気を描き、世界中を騒然とさせた超大作、待望の邦訳。

(裏表紙解説文より)

 

『ココ(下)』

ピーター・ストラウブ/1993年/467ページ

シンガポールとバンコクで起きた、一見無関係の殺人事件。しかし、四人には心当たりがあった。己の恐怖と直面せざるをえない、癒し難い記憶。ベトナムの村で起きた、悪魔の仕業としか思えない惨劇。あのココが帰ってきたのだろうか。だとしたら、つぎに狙われるのは俺たちだ。三人はシンガポールへ飛んだ。一人はニューヨークに残った。そして、不安は次々と現実のものとなっていく……。

(裏表紙解説文より)

 

 小児科医のマイケル・プールは、ベトナム戦争時代の戦友たちに会うため戦没者パレードに参加する。軍では少尉で、最近弁護士を辞めたというハリー・ビーヴァーズ。現在失業中のコナー・リンクレイター。ベトナム料理レストランを経営しているティナ・プーモ。彼らが所属していた小隊で、現在も生き残っている者は少ない。ティム・アンダーヒルは戦争体験を糧に、小説家として名を上げていた。M・O・デングラーはヴィクター・スピタルニーとバンコクへ行ったときに通り魔に殺され、ヴィクターは脱走兵として行方知れずになっていた。

 マイケル、ビーヴァーズ、コナー、ティナの4人が再会した理由は、「ココ」と名乗る連続殺人鬼についてだった。被害者はいずれも手足が切断され、ココと書かれたトランプが現場に残されていたという。それはかつてベトナムの村で起きた惨事の当事者である、彼らしか知らないはずの手口だった。あの小隊の生き残りが、今になって猟奇殺人を起こしているとでもいうのか? ビーヴァーズはココの正体をアンダーヒルだと推察、自分たちだけでココを捕まえ、その顛末を売り込んで大儲けしようと持ちかける。

 店の経営があるティナは恋人のマギー・モーとともにニューヨークに残り、マイケル、ビーヴァーズ、コナーの3人はココの犠牲者が発見されたシンガポールへ飛ぶ。混沌とした町に振り回される彼らだが、アンダーヒルの痕跡はそこかしこに残されていた。そして、マイケルはついにアンダーヒルと再会。だが、にこやかで聡明なアンダーヒルはどう見ても連続殺人鬼とは思えない。その頃、ココはすでにニューヨークへ向かっていた…。(上巻)

 ココの標的になったのはティナだった。沈痛の思いで葬儀に出席したマイケルは、墓場で怪しい人影を発見。相手はワイヤートラップとともに、トランプに書かれたメッセージを残していた。あいつがココに違いない…! その正体は、現在行方不明のヴィクター・スピタルニー以外にあり得なかった。

 住所が割れているコナーは恋人のエレンの家に避難し、ビーヴァーズは当人にのみ伝わるメッセージを貼り紙や雑誌広告に出してココをおびき寄せようとする。マイケル、アンダーヒル、マギーの3人はヴィクターの手がかりを求めて彼の実家へと赴く。両親のジョージとマーガレット夫妻。元恋人のデボラ。級友のシムロー。ヴィクターと同郷だったデングラーの母ヘルガ。地道な聞き込みと調査を続けるマイケルたちは、とある人物との会話で強烈な違和感を覚えた。そして、彼らはついにココが生まれた「背景」を突き止める…。その頃、ココとの対峙を控えたビーヴァーズはさまざまな策を練り、武器を調達していた。だが彼は、自分の背後に近づく影には気づいていなかった…。(下巻)

 

 ベトナム戦争によるPTSDが生んだ殺人鬼が、かつての戦友たちに牙を剥くというサイコスリラー。各所で挟まれる戦争体験のフラッシュバックは非常に生々しく、主人公マイケルたちの心にも深い傷を残していることが体感できる。壮大なボリュームと練られたストーリーはまるで純文学のよう。エンジンがかかり始めるのは下巻以降で、特にココの正体に迫る終盤のスリリングさは圧倒的。犯人当てミステリ、あるいは殺人鬼大暴れホラーとして読むと寄り道の多さに面食らうかもしれない。家庭内あるいは経済面で何かしら問題を抱えているマイケルたち4人の日常や、間近にある死にいつしか麻痺していくベトナム戦争の記憶、妖しい魅力を放つ魔都シンガポールのパートもじゅうぶん読み応えはあるので、じっくり腰を据えて読んでほしい。

 

 本作は世界幻想文学大賞の受賞作品である。また、ストラウブの《ブルー・ローズ三部作》の1作目にあたり、2作目『ミステリー』、3作目『スローター』は扶桑社から発売されている。ちなみに、作中でアンダーヒルが書いたとされる小説「ブルー・ローズ」「レマダの木」は短篇集『扉のない家』で読むことができる。

★★★☆(3.5)

 

角川グループパブリッシング
発売日 : 1993-04-22
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発売日 : 1993-04-22

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