『黒い童謡(うた)』
長坂秀佳/2003年/389ページ
高時給バイトの募集を見て、明け方の銀座にやってきた孝介。古びた雑居ビルの前に立った時、どこからともなく子供たちの歌声が…。“通りゃんせ”のメロディに乗って行われる恐るべき人体実験とは…!?「春・ずいずいずっころばし」「夏・花いちもんめ」「秋・かごめ」そして、「冬・通りゃんせ」―四つの黒い唱は、一つのラストへつながっていく…。鬼才、長坂秀佳が奏でる最新刊、ニューホラー。
(「BOOK」データベースより)
4つの童謡と四季にまつわる、4編を収録した短編集。発行当時は「本当は怖い○○」みたいな本がブームだったのでそれに乗っかったのかもしれない。
「春・ずいずいずっころばし」ー恋人の榛名舜也を事故で失った朝比奈未雪は、オカルト好きの友人・アオ子に霊媒師の左仁和を紹介してもらう。寺の境内で子どもたちの「ずいずいずっころばし」が響く中、未雪は舜也の降霊を依頼。舜也の霊が2人しか知らないはずの秘密を口にしたことで、一気にオカルト信奉者になっていく。やがて未雪はアオ子に教わって幽体離脱を習得し、過去や未来への旅、さらには宇宙生命体との遭遇まで可能にしてしまう…! だが、そんな彼女の前に、舜也の双子の弟を名乗る信彦が現れ、「あなたは暗示のかかりやすさを利用されている」と衝撃の事実を告げる…。
未雪があまりにも都合よくスピリチュアルに目覚めていく様に「おいおい」と突っ込みを入れつつ読んでいたら、話の根底を覆すどんでん返し。未雪を含めて、すべての登場人物が信用ならなくなる手際の良さに舌を巻く。もっとも、他の収録作も同じパターンなので繰り返し感は否めないのだが。
「夏・花いちもんめ」ー大学生の川上透子は2人の女友達、そして幼馴染みの気弱な青年・行川久司と共にラベンダーの花畑を見に行く。オカルト好きの久司によると、この辺りには「花いちもんめの歌が聞こえてきたら、若い娘はすぐに逃げないといけない」という伝説があるらしい。その後、実際に花いちもんめの歌が聞こえてきて久司はひとり怯えはじめるが、そこに現れたのはバイクに跨った不良ライダーたち。リーダーの爽介にボコボコにされた久司を置きざりにした透子たちは、彼らと付き合うことにした。それから1年後、透子&爽介たち6人はツーリング旅行に出かけるが、その行く先々で久司が姿を現す。「去年の呪いはまだ生きてるんだ……あの子がほしい、この子がほしい……早く帰らないと、一人ずつ殺されていくんだよ……」。果たして久司の言う通り、次々と犠牲者が…!?
とにかくヒロインの透子が薄情過ぎて呆れてしまう。なんだこの女。ドゥカティだのハーレーだのに乗っているいかついライダーが「花いちもんめ」を歌うシーンは妙に笑えるが、テーマとキャラが空中分解しているヘンテコな作品としか言いようがない。
「秋・かごめかごめ」ー右手に不思議なダウジング能力を持つ神原卓郎は、はぐれ者の考古学者・白鳥教授とその弟子の西江に師事。白鳥は「人類は3万年以上前から石器を使っていた!」と考古学の常識を覆す説を唱えていたため、異端扱いされていた。ダウジング能力で石器を次々と探し当てる神原は“聖なる手(ホーリー・ハンド)”と呼ばれ人気者になるが、白鳥の主張を裏付けるような石器は見つからない…。焦る西江は「6万5千年前の地層から、君のホーリー・ハンドで石器を掘り当ててほしい」と神原に捏造を提案。躊躇する神原だが、西江の妖艶な妻・亜起子に恋慕していたこともあり、捏造を引き受けてしまう。その後、白鳥教授と神原の相次ぐ大発見により、考古学の歴史は大きく書き換えられていくが、破滅の時は刻一刻と近づいていた…。
2000年に発覚した“ゴッド・ハンド”による旧石器捏造事件を揶揄した一編。神原のホーリー・ハンドはゴッド・ハンドと違って本物のようだが、それでも存在しないものを掘り当てることは不可能だったのだ。4編の中ではキャラクター造型に無理がなく好印象。
「冬・通りゃんせ」ー「通りゃんせの歌が聞こえたら、その歌をたどってお尋ねください」という高時給の怪しい広告に導かれ、天神ビルの研究所を訪れた孝介。ここでは脳を刺激することでリアルな幻覚を見せる研究を行っているという。さっそく実験に参加した孝介が目を覚ますと、そこは昨日までいた信州の山中。彼は自分の前から姿を消したスナック嬢・乃波を追ってここに来ていたのだった。吹雪の中に立ち尽くす孝介に話しかけてきた農夫は「お前さん、牝ギツネの天神さまに化かされたな」という。気が遠くなった孝介が目を覚ますと、そこはやはり研究所の中だった。彼は幻覚を見ているのか、化かされているのか。いったいどの時点から…!?
読んでいて混乱必至、本書の中でも随一の化かし合いが展開される一編。正直読み終えても何がなんだったのかまったく理解できていないのだが、このメチャクチャぶり自体を楽しめたので真相はまあどうでもいいです。
読み終えてみれば、どの話も「童謡」はたいして重要な位置を占めていなかったりする。誰も彼も信用できないというカオスな状況はそれなりに楽しめるのだが、4編すべてがその展開だと少々くどい。ただ個々の作品の濃度はかなりのもので、強烈な読後感を残してくれるのは確か。作者特有のクセのある文体を気にしなければ(嫌でも気になるだろうが)スラスラ読めるだろう。
あらすじや文庫解説文には「ラストで4つの物語が繋がる!」などと書かれているが、過剰な期待は禁物。エピローグでは各所で姿を見せていた「ある存在」が再登場するのだが、かえって謎が深まりかねない超展開なため呆気に取られること必至。それも含めて100%の長坂秀佳節であり、常人の理解の範疇を超えた奇作と言えるだろう。ちなみに『弟切草』など、著者の過去の角川ホラー文庫作品のキャラクターと同じ名前の人物があちこちに出てくるが、ちょっとしたファンサービスの域は出ていないようである。
★★★☆(3.5)

