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700人を乗せた列車が殺戮場に変わる。際限なく広がる悪意と絶望の嵐!-『処刑列車』

『処刑列車』

大石圭/2005年/384ページ

朝のラッシュアワーを過ぎた頃、東海道本線、小田原始発・東京行きの『快速アクティー』が、茅ヶ崎・平塚間の鉄橋で突如停止した。何者かによって乗っ取られたのだ。『この電車は彼らが占拠した』。自らを彼らと名乗る犯人グループは運転手と車掌を射殺し、すべての乗客を一部の車両に閉じこめた。そして、殺戮が始まった──。無差別な悪意が暴走する戦慄のホラー!

(裏表紙解説文より)

 

 小田原始発・東京行き、全車両2階建ての15両編成「快速アクティー」が、“彼ら”を名乗る謎の犯行グループに乗っ取られた。列車は鉄橋の中央で停止させられ、犯人は手始めに運転手と車掌を射殺。さらに727人の乗客を一部の車両に集めさせた。反抗的な態度を取る者、逃げ出そうとする者は容赦なく撃ち殺され、車内も、状況を見守る周囲にも戦慄が走る。テレビ報道で事件を見守る視聴者の中からも、彼らに同調し新たな事件を起こす者が現れる始末。

 殺戮が続く一方で、気まぐれのように解放される人々もいた。そして、彼らは「国会議員が命を差し出せば、ひとりにつき10人を解放する」と宣言。韓国大使が身代わりを申し出て同胞を解放させたのに対し、有効な手段を打ち出せない政府への不満が世間で噴きあがる。車内でも誰を優先的に救うべきかで議論が起き、一層の混乱が広がる。人々のむき出しの悪意とエゴと絶望は、処刑列車を中心に国内全体へと拡散していく…。

 

 密閉空間での大量殺戮というサスペンス・ホラーだが、なにせ乗客が700人以上もいるため、命が次々とゴミのように消費されていく。しかも犠牲者の多くが性格的に難のある人物で、個々のエピソードも微妙に弱く、感情移入できる主人公的なキャラクターは皆無。そのため読者としては緊張感を抱きにくいが、救いのない展開が延々と続くので暗澹たる気分にさせられる。

 中盤以降、“彼ら”のメンバーの素顔がテレビ中継で明らかになり(覆面とかしとけばいいのに)、首謀者とその目的が明らかになっていくのだが、正直その辺はオマケみたいなものだ。彼らは社会に悪意をばら撒くために自らの命をも顧みない「無敵の人」の集団である。ちょっと特殊すぎる過去を持つ首謀者よりも、ごく普通の人々が彼らのメンバーとして集い、力を持ったという事実のほうが恐ろしい。作中で忘れ難いのが、列車の「外」で起きる事件のエピソードだ。結婚詐欺ですべてを失った黒川美奈子、身勝手さゆえに孤独を募らせた三田村則夫。このふたりが及ぶ凶行は彼らの伝道の“成果”であり、列車内の事件には何も影響を及ぼさないものの非常に印象深い。

 ラストはあえて結末を語らないまま幕を閉じ、悪意がこれからも際限なく広がっていくであろうことを示唆して終わる。作者お得意のパターンだが、本作では特に効果的に働いており、行く末が気になる登場人物が多すぎるせいもあって、嫌な余韻を残してくれる。ただ、テーマとシチュエーションは悪くないのだが、大石圭作品の特徴であるセンチメンタルさや、共感し難くも魅力的な犯罪者像といった持ち味が活きる題材ではなかったのではないかという気もする。個人的には、もっとえげつない展開も読みたかったところ。惜しい一作である。

★★★(3.0)

 

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