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‟異形の女王”が跋扈する高層ビルから脱出せよ! クトゥルフ神話を知り尽くした著者の原点回帰-『崑央の女王』

『崑央(クン・ヤン)の女王』

朝松健/1993年/334ページ

分子生物学者・森下杏里は、地上六〇階を誇るハイテクビル、通称リヴァイアサンの塔へ出向を命じられた。紀元前一四〇〇年古代中国は殷王朝の遺跡から出土した、完璧なミイラの研究のためであった。そこで杏里は研究には似つかわしくない厳重な警備の中、不気味な実験を強要される。そして、研究が進むにつれ次々と発生する不思議な現象。杏里はついに実験の真の目的を知るが……!?
解説・菊地秀行
〈書下し〉

(裏表紙解説文より)

 

 分子生物学者の森下杏里は、日本遺伝子工学株式会社・通称JDEに出向することになった。60階建てのハイテク本社ビル、‟リヴァイアサン・タワー”に向かう途中から、杏里は奇妙な過去の幻覚を幾たびも見るようになる。自分が中国人の少女になり、先の大戦で日本軍の忌まわしき実験に巻き込まれるという夢を…。

 ビルの研究ラボ付近の階層は、場違いなほどに厳重な警備体制が敷かれていた。主任のリー博士の説明によると、杏里が関わる「プロジェクトYIN」とは、殷王朝の遺跡から出土した少女のミイラ・通称“崑央(クン・ヤン)の女王”のDNAを調査するというものらしい。そんなプロジェクトになぜ分子生物学者の自分が呼ばれたのか? 違和感を覚える杏里だったが、リー博士は思わせぶりな態度を取るだけだった。

 果たして崑央の女王とは何者なのか。リー博士の、JDEの、そしてプロジェクトYINの真の目的とは何なのか。女王が真の姿に目覚めたとき、リヴァイアサン・タワーは異形の怪物が跋扈し、鮮血がフロアに滴る死の実験場と化した…!!

 

 比較的序盤に「旧支配者」という単語が出てくるのでバラしてしまうが、本作はクトゥルフ神話の1作である。蘇った女王とその眷属の冒涜的なビジュアルは素晴らしく、おなじみの触手系とはまた違ったグロテスクさがある。後半はハイテクビルを舞台に、ホラー映画さながらのアクションが展開。銃火器をぶっ放して怪物たちを撃退する杏里はいくらなんでもタフ過ぎて、まるで『バイオハザード』を観ているかのような気にさせられるが、むろん本作のほうが早い。ラストの絶望感も含め、単なるドンパチものの怪物退治アクションになっていないのが好印象。あとがきで著者が「原点回帰」を謳っているだけはあり、新時代のクトルゥフ神話としては満点だろう。

★★★(3.0)

 

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