『カタリゴト 帝都宵闇伝奇譚』
柴田勝家/2024年/336ページ
世は大正。華族・堀井三左衛門男爵が何者かに殺された。“華族殺し”を追う探偵・平島はある日、美しい年少浪曲師・湖月と出会う。噂の人攫い“ムカデ伯爵”、堀井邸に現れる“黄金幽霊の首”の謎…次々と難事件に直面する平島。湖月は僅かな手がかりと各地の伝承をもとに奇想天外な物語“カタリゴト”を繰り広げ、さらに道理の縄で括り上げていくーその結末は全くの嘘偽りか、それとも事件の真相か?驚愕連発の怪奇事件簿、開幕!
(「BOOK」データベースより)
実家を勘当された元家族の青年・平島元雪はあこがれの探偵事務所を開いた。知人の堀井夫人から依頼された猫探しの最中、平島は男とも女とも知れない妖しい魅力を放つ年少浪曲師・真鶸亭湖月と出会う。湖月の芸は観客からお題を募り、それを「カタリゴト」という1つの物語としてまとめるというもの。平島はなんとなしに「猫の話」をリクエスト。新潟から来たという紳士は「故郷に伝わる、佐渡島の女と薄情な船大工の話を悲恋に仕立ててほしい」と注文。喪服を着た男は、これも新潟で聞いたという「死んだはずの男が蘇った」という話をする。猫、悲恋、蘇る死体。この3つのお題から、湖月は思わず聞き入ってしまう不思議な話「大正ゾンビ奇譚」を物語る。さらには、すべての奇妙な出来事に理屈をつけて種明かしをする「語り直し」まで…。その見事な語り口に、平島はすっかり湖月のファンになってしまうのだった。(第一話)
「ムカデ伯爵と消えたバスガール」-友人の錦方太郎から「友人の恋人のバスガール・新庄千草が、走行中のバスから消えた」という話を聞いた平島は興味を持ち、独自に調査を開始。千草の同僚の高村あぐりは「あの子は美女をさらって血を啜って殺す怪人、ムカデ伯爵に攫われたのだ」と主張する。調査の帰り、湖月と出会った平島は(ショートケーキだのアイスクリームだのを奢りつつ)事件の顛末を語った。話を聞いた湖月はカタリゴト、「ムカデ伯爵と消えたバスガール」を披露する。(第二話)
堀井夫人の娘、照子が平島の探偵事務所にやって来た。初恋の人が自分が婚約したことを告げた照子は、父親・堀井三左衛門男爵を殺害した犯人の捜査、そして父が残した「堀井の遺産」の探索を依頼する。尊敬していた堀井男爵、そして幼少のころから仲の良かった照子のため依頼を引き受けた平島は、堀井の屋敷の探索を始める。堀井夫人の照子によると、この屋敷には「生首だけの幽霊が現れて、砂金を残していく」という奇妙極まりない目撃談があるのだという。思案に暮れていた平島は、駅前で群衆相手に芸を披露中の湖月を発見。「銀行の話」、「駿河台にまつわる話」、そして平島の「生首の幽霊が黄金になる話」。3つのお題を受けてカタリゴト、「黄金幽霊の首」が始まる…。湖月が結論付けた真相は、なんとも予想外なものだった。だが平島は照子の結婚相手だという呉松伯爵の姿を見、ある恐ろしい事実に気づく。(第三話)
堀井照子と呉松伯爵の婚礼の日、突然の悲劇が巻き起こる。凄惨で美しき死体。そしてその死体の消失…。方太郎、あぐり、妹の平島影子、そして湖月の協力を得て、平島は真実へと近づいていく。そして事件を締めくくる最大のカタリゴト。お題は「大正ゾンビ奇譚」「ムカデ伯爵と消えたバスガール」「黄金幽霊の首」の3つの事件。すべてが1つになったとき、「当世巌窟王」の物語が真犯人を指し示す…!!(第四話)
お坊ちゃんな新米探偵の青年と、性別不明の美形浪曲師という組み合わせがなかなかツボである。もちろん湖月の物語がすべて真実というわけではなく、平島も筋道の立った推理を組み立てるだけの才能はあり、お互いにリスペクトしあう関係性である。平島のほうはどうも恋心に近いようであるが。
奇妙な謎の数々を奇妙な「カタリゴト」としてまず披露し、その後「語り直し」でトリックを明かすという斬新ながらもわかりやすい構成もなんとも巧い。エピソードこそ歩く死体に怪人に幽霊とホラー満載な一方、超自然的な現象は起きていなかったりするが、猟奇と怪奇と耽美が漂う大正浪漫の雰囲気は抜群。完璧なフォーマットである。
★★★★(4.0)