『バチカン奇跡調査官 天使と悪魔のゲーム』
藤木稟/2012年/288ページ
奇跡調査官の初仕事を終えた平賀は、ある少年と面会することに。彼は知能指数測定不能の天才児だが、暇にあかせて独自に生物兵器を開発するなど危険行為を繰り返し、現在はバチカン情報局で軟禁状態にあるという。迷える少年の心を救うため、平賀のとった行動とは…(表題作)ほか、ロベルトの孤独な少年時代と平賀との出会いをえがいた「日だまりのある所」、ジュリアの秘密が明らかになる「ファンダンゴ」など計4編を収録。
(「BOOK」データベースより)
レギュラー陣の過去話など、深掘りエピソードを中心にした短編集。初めて語られる重要な事実も多く、シリーズ作品としても見逃せない内容だが、個々の作品としても楽しめるので入門編としてもよいかもしれない。
「日だまりのある所」-少年の頃、他人とコミュニケーションが取れず孤立していたころのロベルトと、読書を通じて彼の唯一の友人となったヨゼフとの思い出話。横にドマイペースな平賀がいるためかまあまあ社交的に見えるロベルトだが、出自を考えれば確かに子供の頃はこうであってもおかしくない。事件らしい事件の起きない、シンプルな‟いい話”。
「天使と悪魔のゲーム」-知能指数測定不能の天才児にして国際的な犯罪者、ローレン・ディルーカ。宗教的な矯正を受けるべきと判断されバチカンに送られたローレンは、自分と同じく天才的な頭脳を持つ平賀に興味を持つ。ローレンとゲームをしつつ、いまだに解けない過去の不思議な体験談を話し始める平賀。それは悪魔を父親とし、1000の願いを叶える力を持ったある男の話だった…。「バチカン奇跡調査官」シリーズの短編は、長編ではあまり出てこないような、まっとうなオカルトや神秘体験もよく登場する。本編のキーパーソンであるローレンと平賀の出会いのエピソードとともに、奇妙な運命を背負った「悪魔の子」の生涯を描く好編。
「サウロ、闇を祓う手」-平賀、ロベルトの上司であり、稀代のエクソシストとして知られるサウロ神父の生い立ちと、エクソシストとしての初仕事を描く。サウロ大司教のエクソシスト設定はほとんど本編に出てこなかった…というかサウロ自身にスポットが当たることもほとんどなかったのでなかなか新鮮である。
「ファンダンゴ」-優秀な頭脳と悪辣な精神を併せ持つ青年ジョナサン・ウイルセイントは、自分と同じ顔をした影のような男につきまとわれていた。学生時代にいじめ抜いて殺してしまった、自分と同じ名前の生徒・ジョナサンが蘇って復讐しに来たのだろうか。ラスベガスで仲間たちを集い、カードスキミングで得た小金で豪遊している間も、ジョナサンにつきまとう影は消えることが無く、ついに両者は対峙する…。自分と同じ名前と同じ姿を持つ、ドッペルゲンガーのような存在につきまとわれる恐怖。まるでエドガー・アラン・ポーの古典怪談「ウィリアム・ウィルソン」のようだが、本作は展開にひと捻りを入れつつ、シリーズの宿敵的存在になりつつあるジュリア司祭の驚くべき正体を明らかにしている。
★★★☆(3.5)