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事故死したはずの幼馴染みが、復讐のため姿を現す。寂寥感に満ちた英国サスペンス-『戯れる死者』

『戯れる死者』

スティーヴン・ギャラガー/1993年/520ページ

九月の終わりのある日。一人の少年が河口に佇んでいた。少年・ニックの目が見つめていたもの――それは、水辺に打ち寄せられて腐敗した水死体だった。
二〇年後、ニックは幼馴染みのジョニーと再会する。子どもじみた狂気を残したまま成人したジョニー。あの日の出来事が二人の運命に影を落としていた――。
少年の日のノスタルジーがいま狂気に転じ、終わりのない恐怖の物語が始まる。

(裏表紙解説文より)

 

 捜査課の刑事、ニック・フレイジャーは新しく相棒になったジョニー・メイズの行動に不安を覚えていた。ふたりは同じ故郷の幼馴染みであり、20年ぶりの再会だったが、度を越した悪ふざけをしつつ、気に食わないことがあると相手の名前を黒い手帳の復讐リストに書きつけ報復を誓うその姿は、まるで癇癪もちの子供がそのまま大きくなっただけのようだった。そして、かつて痛めつけた不良グループに報復されたことをきっかけにジョニーの怒りは爆発。不良グループの車を追うため、同行していたニックを殴って気絶させ、高速道路を逆走、山道を猛スピードで激走する狂気のチェイスを開始する。目を覚ましたニックは、ジョニーが車をいったん停めて降りた隙に脱出。彼を説得しようとするも、ジョニーは「いま現在、きみの名は手帳にのっている」と言い残して再び不良たちを追っていった。――翌日、ダムの水底から2台の車と不良グループの死体が引き上げられた。だが、なぜかジョニーの死体は見つからなかった。

 ニックは事件の顛末を書いて上司のブルーノに渡したが、不祥事の告発にも等しいレポートを前に苦い顔をされる。同居している恋人のジェニファーのキャリアに傷をつけないため、彼女と別れたニックはしばらく故郷へ帰ることにした。ジョニーの父母と話をし、遺体のないまま告別式に出ることに。告別式に来ていたジョニーの友人は、ニックのほかは同級生だったアリス・クレイグしかいなかった。思い出を振り返るとともに、アリスと親交を深めていくニック。その頃、とある農場で目を覚ました男が、びしょ濡れになった黒い手帳を読み返していた。彼は仕事を中途半端なままにしておくことが何より嫌いだった…。

 

 サイコ殺人鬼と化した、元同僚にして幼馴染みとの対決を余儀なくされる男の話。ジョニーは何をしでかすかわからない基地外であり、悪知恵も働く油断ならない相手ではあるのだが、意外と分別はあり復讐手帳に載っている以外の人間は無闇に殺さなかったりする。また事故の影響で記憶障害を患ったせいかときおりボケ老人みたいな反応もするし、この手のサイコサスペンスに出てくる殺人鬼としてはどうも頼りない。序盤のカーチェイスの部分などアクションシーンはそれなりに読ませるし、アリスが住居代わりにしている古びたゲームセンターなどうらぶれた田舎町の雰囲気は悪くないのだが、全体的に見れば陰鬱とした地味な印象のほうが強い。

 ただ、作者が書きたかったのはつよつよイカレ殺人鬼の皆殺し大活躍ではなく、邦題どおりの死者の戯れともの悲しさにあるのだろう。ジョニーがダムでの事故の時点で、社会的にも、人間としても「死者」と化してしまったのは間違いがない。死者に未来はなく過去に捕らわれるばかりで、その死を悼まれなかったものは悪霊のごとく害を成すことしかできない。生きながらモンスターと化してしまった幼馴染みとの奇妙な同行が描かれる第三部の展開は、エンタメ性を追求したサイコサスペンスでは味わえない静かで荒涼とした寂寥感に満ちている。

★★★(3.0)

 

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