『COVER 東京駅おもてうら交番・堀北恵平』
内藤了/2019年/352ページ
東京駅近くのホテルで死体が見つかった。鑑識研修中の新人女性警察官・堀北恵平は、事件の報せを受け現場へ駆けつける。血の海と化した部屋の中には、体の一部を切り取られた女性の遺体が…。陰惨な事件に絶句する恵平は、青年刑事・平野と捜査に乗り出す。しかし、またも同じ部分が切除された遺体が見つかりー犯人は何のために“その部分”を持ち去ったのか?「警察官の卵」が現代の猟奇犯罪を追う、シリーズ第2弾。
(「BOOK」データベースより)
東京駅おもて交番で地域課研修を終え、刑事課研修に異動した堀北恵平。異動して早々、彼女は八重洲のファッションホテルで起きたAV女優猟奇殺人事件の現場に駆り出される。被害者・進藤玲子は窒息死しており、遺体からは乳房が切り取られていた。事件の直前まで玲子を撮影していたスタッフにはアリバイがある。昼間の仕事も含め、被害者を恨んでいるような人間は見当たらない…。捜査陣は玲子の乳房に描かれていた特徴的な蝶のタトゥー、彼女がモデルになったアダルトグッズなどから手がかりを捜すが、なかなか進展は見られなかった。
被害者に対する心ない報道に心を痛める恵平。丸の内北口の焼き鳥屋、“ダミちゃん”で酒を酌み交わした恵平と先輩の平野刑事は帰り道、「進藤玲子の無念を晴らさせてください」と東京駅に向かって一礼する。その後、再び歩き始めた2人の前に、再びあの「東京駅うら交番」が姿を現すのだった。
事件を直接捜査する刑事ではなく、まだ裏方である新人警察官の視点が新鮮な好シリーズ。この手の作品だと殺されてナンボになりがちな被害者、犠牲者たちの心情に寄り添い、己の未熟さに向き合いつつも、まっすぐな正義感を燃やすことができる恵平は非常に好感が持てる主人公である。そんな彼女を支えてくれる周囲の人間…厳しくも誠実な警察関係者、東京駅で暮らす人情深き市井の人々もまた印象深い。
女性の乳房に執着する犯人。そして起きる第二、第三の殺人。タトゥーで描かれた蝶の謎。地道な調査が真犯人へと結びつく過程は読みごたえがある。今回の犯人はかなりストレートで、自分が推理した犯人の動機とはかけ離れていた(うまい具合にミスリードに騙されたとも言えるが)。うら交番の巡査・柏村が語る過去の事件との関りがもっとわかりやすければよかった気もする。とは言え、リアリティあふれる世界観にファンタジックな要素を溶け込ませる手腕は見事で、角川ホラー文庫で出す意義のある警察小説である。繰り返しになるがキャラがいいんだ、ホントに。
★★★★☆(4.5)