『弟切草』
長坂秀佳/1999年/340ページ
弟切草…その花言葉は『復讐』。ゲームデザイナーの公平は、恋人奈美とのドライブで山中、事故に遭う。二人がやっとたどり着いたのは、弟切草が咲き乱れる洋館だった。「まるで俺が創ったゲームそのものだ!」愕然とする公平。そして、それは惨劇の幕開けだった…。PlayStation版話題のゲームを乱歩賞作家の原作者がオリジナル小説化。
(「BOOK」データベースより)
ゲームデザイナーの松平公平は、恋人の菊島奈美とともにドライブに出かけるが、事故で車が破損してしまう。雷雨の中、とある洋館へとたどり着いた2人だが、その洋館は公平が作ったゲーム『弟切草』に出てくるものとそっくりだった。神出鬼没のヨロイ、マムシの群れ、車椅子に乗ったミイラなど、ゲームさながらの怪奇現象に襲われる公平と奈美…。
2人はお互い、相手には言えない秘密を抱えていた。公平が作った『弟切草』は、小説家志望だったかつての恋人・高松明美のアイデアを盗んだものだった。『弟切草』の完成後、明美は自殺を遂げている…。自分をこの屋敷へと導いたのは明美の怨念ではないのか。明美を紹介してくれたのは、公平の弟の直樹だった。今回のドライブルートを勧めてくれたのも直樹だった。すべては仕組まれているのではないか…?
奈美は以前、父親ほどに年齢の離れている教授、有栖川耀一郎と不倫関係にあった。だが軽井沢の別荘へと旅行に出かけたある日、態度を豹変させた耀一郎に薬を盛られてしまった奈美は5日間のあいだ記憶を失う。朦朧とした意識の中、目を覚ました奈美は耀一郎が転落死したことを知る。ひょっとしたら耀一郎は自分に殺されたのではないか。自分をこの屋敷へと導いたのは耀一郎の怨念ではないのか。あの軽井沢の別荘と、この屋敷の内装はそっくりだ。すべては仕組まれているのではないか…? 疑念が疑念を生む中、さらなる恐怖が公平と奈美に襲い掛かる!
『弟切草』は、1992年にスーパーファミコンで発売されたテキストアドベンチャーゲーム。1999年にプレイステーションでリメイク版が発売される際、原作ゲームのシナリオ担当である長坂秀佳が新たに書き下ろしたオリジナルストーリーが本作である。実際のゲームとはまったく異なる内容で、『弟切草』を作ったゲームデザイナーが『弟切草』の舞台のような洋館に迷い込んでしまう…というややメタな展開となっている。
文体のクセが強く、「ハレンチ」、「ムフフ」、「オジジギャグ」、「オバンギャグ」、「幽霊の正体見たら多羅尾伴内」等、正気とは思えないフレーズが頻出する序盤は正直キツいものがある。いくら長坂氏がベテランとは言え、「ヤングなアベックはこんなナウい言葉は使いませんよ」と誰か進言できなかったのだろうか…。ゲームに登場する「ナオミ」も重要キャラとして姿を見せるのだが、ヤマンバかなにかのような三下めいた口調なので怖いとか不気味とか以前に笑ってしまう。「章ごとに公平と奈美のそれぞれの視点から事件を描く」という試みもそれ自体は悪くないのだが、章をまたぐ度にまったく同じ会話やシチュエーションがしばしば繰り返されるのには閉口する。
物語自体は「『弟切草』を知らなくても楽しめるし、知っていればなお楽しい」という命題を巧くクリアしており感心する。トリックも屋敷ならではのカラクリに加え、心理的なトリックも巧みに使われており、ラスト付近は関係性の整理が追い付かない怒涛の展開だが流石の構成だ。最後の最後でオカルト展開に帰着してしまうのは微妙に納得いかないが、まあ『弟切草』らしくはあるので許容範囲。
トータルで見れば、ベテラン脚本家ならではの匠と弊害が両方フルに発揮された、「有名ゲームを原作者が小説化!」という惹句からは想像もつかない珍妙な作品である。本作はシリーズ化されているらしいが、続編はどんな展開になっているのか期待と不安が募る。
★★★(3.0)