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“呪われし子”が巻き起こす惨劇。貞子自身の活躍は地味だがJホラーとしては上々-『貞子 3D 2 ――再誕』

『貞子 3D ――再誕』

後藤リウ(著)、鈴木光司(原作)、保阪大輔・杉原憲明(脚本)/2013年/220ページ

安藤孝則と茜の間に、ひとりの娘が生まれた。それから5年…妻を失って別人のようになった孝則を気遣いながら、大学院生の安藤楓子は幼い姪・凪の面倒をみていた。再び世に蔓延する「呪いの動画」。時を同じくして凪の周囲では、不審な死が連続して起こり始める。それら全てが凪の描く不気味な絵とリンクしていることに気づいた楓子は、悪い予感に震えるが…。貞子の恐怖から、もう誰も逃げられない。ホラー映画を完全ノベライズ!

(「BOOK」データベースより)

 

 安藤孝則の妹・楓子は、忙しい父と兄の代わりに幼い姪・凪の面倒を見ていた。凪の母親・茜は若くして亡くなっており、家政婦の江柄子もトゲのある人物なため必然的に楓子が子守をすることになったのだが、人前ではほとんど喋らず、不気味な絵ばかり描いている凪とどう向き合うべきか悩みの種になっていた。

 一方、世間では再び「呪いの動画」の存在がささやかれ始めていた。妻を呪いによって失った刑事・垣内は、かつて呪いの動画の災禍から生き残るも重傷を負い、刑事を引退した小磯と出会う。小磯から「貞子」なる女の名を聞いた垣内は独自の調査を進め、貞子が現世に復活したことを悟る…。

 楓子の周りでは不審な死が続いていた。凪をいじめていた保育園児。家政婦の江柄子。呪いの動画について調べていた楓子の友人。そして楓子は、凪の描いた絵の通りに人が死んでいることに気づいてしまう…。凪には何か秘密があるに違いない。孝則の家を調べた楓子は、死刑囚の柏田清司なる人物から届けられた無数の封書を発見する。手紙に書かれていたのは凪のことばかり。凪は僕の希望。世界を変えられるのは凪だけ…。孝則と柏田、凪にどのような関係があったのか。柏田と面会した楓子、そして再び小磯と会った垣内は「貞子の子を殺さない限り、悲劇を続く」と聞かされ、“ある決意”を固める…。

 

 タイトル通り『貞子3D 2』のノベライズだが、前作ノベライズ『貞子3D――復活』の独自設定もしっかり拾われている。前作履修者は序盤の段階で「生きとったんかワレ」「死んだんかワレ」の連続で驚いてしまうが、むろん本作から読み進めても問題はない。

 心情描写が細やかで、映画ノベライズにありがちな「シナリオに振り回されている感」がなく、読みごたえがある。ぶっちゃけ貞子本人はあまり活躍せず、前作のような大暴れを期待していると肩透かしかもしれないが、Jホラーとしては上々。容赦なく人が死ぬ一方、胸糞のみで終わらないバランス感覚もあり、ミスリードに騙されても悪い気はしない。

 ただ、最後まで残された謎は多い。プロローグの女性・坂田は前作でも館の管理人として登場していたが、彼女が何者で、何をどこまで知っているのかはよくわからない。エピローグで柏田の独白にある“あの人”も坂田のことだろうが、両者の関係もまったく不明である。最後の最後にはこの世界が「ループ」するであろうことが示されているが。

★★★☆(3.5)

 

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