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小説版は貞子が飛び出さないぶん、せめて物語としての深みが欲しかった-『貞子 3D ――復活』

『貞子 3D ――復活』

藤ダリオ(著)、鈴木光司(原作)、藤岡美暢・英勉(原案)/2012年/229ページ

茜が教える女子高では、見ると死ぬという「呪いの動画」の噂が広がっていた。遺体に手の形の痣が残された不審死が続くなか、ついに茜の生徒も不可解な死を遂げる。警察は自殺と判断するが、生徒の遺体にも同じ形の痣が残され、死の直前に見ていたサイトが、噂の「呪いの動画」だったことが判明するー。かつて日本中を恐怖に陥れた、あの貞子がよみがえる。逃れられない恐怖が襲う話題のホラー映画を完全ノベライズ。

(「BOOK」データベースより)

 

 炎上した動画投稿者・柏田清司はブチ切れたあげく、10数年前に世間を騒がせた悪霊・貞子を蘇らせて世界を滅ぼそうとしていた。幾人もの女性をさらって井戸に投げ込み、貞子が生まれた状況を再現しようとしたのだ。柏田がブチ切れた生放送は「呪いの動画」として話題になっており、それを見たものは手でつかまれたような痣が浮かび上がったのちに死ぬのだという。

 高校教師の鮎川茜は、教え子の森崎典子が「呪いの動画」を見た直後に自ら窓を突き破って転落死したことを知る。茜が自宅に帰ると急にパソコンの電源が付き、「呪いの動画」が流れ出してしまう。恋人の安藤孝則とともに動画を見てしまった茜の前に貞子が出現、逃げ出した2人だが、あらゆるモニターを介して出現する貞子は執拗に茜たちを追い詰める。周囲にテレビやパソコンのない公園までたどり着いた茜たちがほっとしたのもつかの間、池の水面から現れた貞子が髪の毛を伸ばして孝則を捕らえ、姿を消してしまった。孝則を救うため、茜は一連の事件を追ううちに部下を殺された刑事・小磯、典子の親友だった北山理沙らの助けを借りて行方を追うのだが…。

 

 映画『貞子3D』のノベライズ。著者の藤ダリオは映画原案の藤岡美暢その人だったりする。映画は『リング』シリーズの一作『エス』を原作としているが、登場人物の名前が一致しているくらいで中身はまったく異なる。そしてこのノベライズ版も、映画版とは細部がかなり違っていたりする。例えば安藤孝則が『らせん』の安藤満男の息子であることは映画では描かれていなかったし、理沙の扱いやラストの貞子との対峙部分もだいぶ異なる。全体的に、ノベライズ版のほうが小説『リング』を踏まえた展開になっているようだ。

 で、話として面白いかと言われると、第三者から見ればわりとしょうもない動機で貞子復活をもくろむ柏田(『エス』では超重要人物だったのだが、『貞子3D』ではその設定は無いようだ)、実は超能力者なので気合を入れればバケモンを一掃できる茜、助けを待つばかりで初期ピーチ姫のような孝則、なぜか髪の毛がメインの武器と化した貞子など、キャラクターの魅力の薄さがわりと致命的である。映画版からの改変部分は『リング』への目くばせの他は意図がよくわからないものばかり。どうせならもっと物語と人物に深みを与えてほしかった。

★★☆(2.5)

 

著者 : 藤ダリオ
角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日 : 2012-04-25

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