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鬼部長のネカマ人格が暴走・実体化!? ポケモンショックがすべてを吹き飛ばす狂気のラスト!-『iレディ』

『iレディ』

吉村達也/1999年/380ページ

鬼の営業部長と恐れられる今泉謙作がハマった趣味はインターネット上でいい女を演じること! 姿も声も隠したサイバー世界で23歳の美人秘書「松本リカ」になりきる快感を覚えた彼は、ホームページに集うネクラな男たちを毎日からかって楽しんでいた。だがある日、今泉の頭の中で松本リカが突然暴れ出した! 主から独立した人格を主張しだし、なんと彼の息子の慎太郎に恋をしてしまったのだ! 今泉はリカの暴走を必死に止めようとするが、思いもよらぬ結末が!

(「BOOK」データベースより)

 

 部下や下請けにはパワハラ三昧、妻や息子にも厳しく娘にだけは激アマという、絵に描いたような昭和人間の鬼部長こと今泉謙作。彼のひそかな趣味は美人秘書「松本リカ」になりきって掲示板でチヤホヤされるというネカマ活動であった。だが次第にリカの人格が今泉を侵食しはじめ、事あるごとに「いやん」などと女言葉が出てしまうようになる。そしてリカは今泉の息子・慎太郎に恋をしてしまい、「慎太郎と結婚するのでもうここには来ません」と掲示板で宣言。自分の指が勝手にキーボードで文章を打つのを眺めながら何もできない今泉。さらに今泉がつれなく対応したせいで倒産した会社の元社長から「あんたのパワハラ電話の音源をネットに流す」と脅され、すっかりノイローゼに。傷心のまま帰宅した今泉は、息子から「数日前に出会った女性と結婚を考えている」と聞かされ仰天。榊原いずみと名乗るその女性は、今泉がネットで作り上げてきた松本リカの外見そのままだったのだ!

 

 ネットの人格が独立して現実世界にも影響を及ぼし始める…というのは確かにホラーだが、主人公の今泉がいかにもなクソオヤジなので、彼がいかに困憊しようが読み手は怖がるよりゲラゲラ笑って眺めてしまう。ネタバレしてしまうとリカの正体はコンピューターウィルスなのだが(この手の作品のコンピューターウィルスは万能すぎる)、強烈な光学的刺激を受けると動作が予測できなくなるという弱点を持っていた。クライマックスはデート中の慎太郎といずみ、リカの結婚宣言にブチ切れ慎太郎を殺そうとするガチ恋信者、その凶行を止めようと息子を探す今泉が隅田川の花火大会でカチ会う…というものだが、実際はカチ会う前に事態は収束してしまう。「リカ」に侵されていた今泉の脳は花火、すなわち強烈な光学的刺激にさらされたことで予想外の事態を引き起こし…。この後の展開はすべてを投げっぱなしにするかのような「爆発オチ」にも近いもので、呆気にとられてしまう。それまで積み上げてきた伏線はなんだったんだよ! なんとも吉村達也らしい、怪作スレスレのトンデモSF&ドタバタ喜劇。

★★★(3.0)

 

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