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『今昔物語』のエピソードが、現代の猟奇事件・未解決事件に生まれ変わる-『業苦 忌まわ昔(弐)』

『業苦 忌まわ昔(弐)』

岩井志麻子/2020年/208ページ

志を立て腹に宿った釈迦如来。親子の情が通じない無情なあの世。色男を焦がれ死にさせた冷酷な美女。妻に追い立てられて老いた姨母を山に捨てた夫―。これは昔か現代か。それは夢か現か幻か。過去を語ることで浮き上がる、忘れていた忌まわしい今…。「今昔物語集」の著名な説話をもとに、鋭敏な感性と観察眼で現代に起こった凄惨な事件を解釈した、比類なき怪異譚。人間の本質を巧みにあぶりだす人気シリーズ第2弾!

(「BOOK」データベースより)

 

 『忌まわ昔』と同じく、『今昔物語』のエピソードを現代の猟奇事件・凶悪事件・未解決事件へと換骨奪胎した厭な話集。前作にも増してワイドショー的・ゴシップ的な雰囲気が増しており、シリーズとしてのカラーが確立されてきた感じがする。

 巻頭「釈迦如来、人界へ宿り給へる語」は、三歳の時に行方不明になった妹が、二十年後に姿を消した時そのままの服装で帰ってきた…という不思議な事件。神隠しか、それともタイムスリップか…と思いきや、実に現実的かつ後味の悪い結末を突き付けてくる。「子を恋ひて閻魔王宮に至りし人の語」「池の尾の禅珍内供の鼻の語」はともに現実になじめずツイッターで大暴れする人々の生態をそのまま描き、現代怪談として成立させてしまっている。後者は芥川龍之介『鼻』の元ネタ。

 超自然要素がある話が少なめなぶん、幻想的かつ迷宮的な「源頼信朝臣の男頼義、馬盗人を射殺せる語」は印象深い。地味だがしっかりものの姉と、夢見がちだが愛嬌のある妹。妹は結婚し子供を産み、未婚の姉と共に実家に暮らしていたが、ある日妹が子供を残して姿を消してしまう。姉は「妹は友達に会いに行くと言っていた」と証言するが、その友人は知らないと言う。そして姉は「妹の置き手紙があったが、気持ち悪いので燃やしてしまった」などと証言し…。傍から見れば明らかに怪しい姉に対して、何も問い詰めることができない両親の心情がリアル。元ネタとは真逆の「馬」を巡る2人のちぐはぐさと、ちぐはぐでありながらも逃れられない血の宿命を感じさせる結末が業の深さを感じさせる。

 「信濃国の姨捨山の語」はおなじみ姥捨て山の話。かつて自分(語り手)と母を養ってくれた、母と同年代の「ママサン」と「ネエサン」姉妹。身を寄せ合って暮らす4人ったが、金銭トラブルがきっかけでネエサンがママサンを惨殺してしまう。収監されたネエサンの存在は、いつしか語り手の中で初恋の人のような思いでに変わっていた。そして時は過ぎ、結婚し家庭を持った語り手の元をネエサンが訪れ、夫婦と同居することに…。奇妙な疑似家族を描いた一編だが、この現代今昔物語では姨母を案じる夫の想いは顧みられることなく、ラストのわずか3文字が歪んだ関係を容赦なく断ち切るのだ。

★★★☆(3.5)