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全部読めるといいですね。読んだ上で、おすすめしたい作品は全力で推します。

不倫・売春・詐欺・狂言…。業と欲望にまみれた現代版今昔物語!-『忌まわ昔』

『忌まわ昔』

岩井志麻子/2019年/224ページ

炎に飛び込み自らを焼いた兎。盗みに失敗して父を殺した子。図らずも3人を切り殺してしまった男。「今は昔」で始まり、「となむ語り伝へたるとや」で終わる「今昔物語集」。この日本最大の説話集を下敷きに、人間に巣くう欲望の闇を実際の事件・出来事を題材に語り直した、岩井志麻子版“怪談実話”新今昔物語が誕生。時代が変わっても、人間の愚かさは変わらない―。平安の世から令和の今に、遠く忌まわしき話の数々が甦る!

(「BOOK」データベースより)

 

  芥川龍之介の『羅生門』『鼻』『藪の中』などの元ネタでもある平安時代の説話集、『今昔物語』を現代風にアレンジした10編が収められている。不倫や売春、詐欺に狂言、ネットの悪意に猟奇犯罪と、ワイドショー的なえげつないネタが満載。元の『今昔物語』自体、今では考えられないようなイカれた道徳観の話が多かったりするせいか、これがなかなか相性はよかったりする。各話の冒頭には元になった話のあらすじも記してあるので、「この話がなぜこんなことに!」と、その変貌ぶりに戦慄(いろんな意味で)することができる。

 巻頭の「三の獣、菩薩の道を行じ、兎、身を焼ける話」は老人をもてなすために自ら火に飛び込んで御馳走と化した兎の話が元ネタだが、「献身的過ぎる兎」の悪意的解釈には呆気にとられるほど。本書の作風と意図を如実に表す完璧な導入である。「百済の川成と飛騨の工と挑みし語」はホラー漫画家だった姉が怪死を遂げたことで好機の目にさらされる家族と、その忌まわしき死の真相を語る。「女、医師の家に行き、瘡を治して逃げし語」は、落ちぶれたかつての売れっ子女優が自伝を書いたライター青年にストーキングする遣る瀬無い話だが、ラスト一行のとんでもない事実発覚のおかげで強烈な印象を残す。「阿蘇の史、盗人にあひて謀りて逃げし語」の元ネタは「なぜか全裸になって牛車に乗っていた男が盗賊に襲われるが、うまい返し方をしたので笑って見逃してもらえた」という教訓があるのかないのかよくわからない話だが、これを「自宅に侵入した不審者を、『エコエコアザラク』の黒井ミサよろしく全裸になって追い返す」という話にアレンジするのはさすがに笑ってしまう(岩井氏は『エコエコアザラク』のノベライズも手掛けている)。本書唯一のハッピーエンド。「羅城門の上層に登りて死人を見師盗人の話」はおなじみ『羅生門』のエピソードだが、盗人を「盗作ばかり繰り返す小説家」に、死人の髪の毛を抜く老婆をさらに救いの無い存在として描いており大変えげつない。ラストを締めくくる「妻を具して丹波の国に行きたる男、大江山に於いて縛られし語」は、死者の残留思念を読み取ることができる男が、テレビ局の依頼で惨殺されたアイドルの死の真相を暴く…という内容で、意外な真相と煽情的な筋立て、元ネタの盛り込み具合が非常にうまく融合した、本領発揮という感のある1編。

★★★☆(3.5)