『初恋』
吉村達也/1993年/279ページ
浮気相手の女性につきまとわれたら、『危険な情事』の代償とあきらめもするが、三宅の場合は違っていた。職場結婚をし、平凡なサラリーマン生活を送っていた三宅の前に、ある日突然、中学校時代の同級生だった女性が現れた。十六年前、一度だけキスをした相手である。三宅は、とうに忘れ去っていたが、彼女にとっては六千日もの間、片時も忘れることのできない初恋だったのだ。その愛が再燃したとき、三宅にとって恐怖の日々がはじまった……。
(裏表紙解説より)
完全に存在も忘れていた中学時代の同級生・広畑克江から、ある日いきなり熱烈なアプローチを受けるようになってしまった平凡なサラリーマン・三宅。自分の顔の愛情キャラ弁を一方的に送り付けられるのにはじまり、盗撮・ゴミ漁り・会社への電凸といったお決まりの行動も。三宅の妻の妊娠を知って以降、克江の異常さはエスカレートし、ついには三宅と関わりのある女性たちが犠牲になってしまう…。
よくあるストーカー小説と言ってしまえばそれまでだが、克江の行動がいくらなんでも常軌を逸しているせいで恐怖よりも先に笑いが出てきてしまう。ラジオの電話相談室に現在進行中の初恋について打ち明けるものの、その異常さを指摘されるとたちまち激昂、「も、も、も、も、もう話したくなーい! 黙れっ、だまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれ…」と怒鳴りつけたあとギャーッと絶叫、電話を叩きつけて切るもなお怒りは収まらず、洗面所の鏡を叩き割ってガラスの破片をムシャムシャと食べ始め、顔中血まみれになってそのまま病院に駆け込むシーンなどは爆笑モノである。
話の都合とは言え、まったく警察に連絡しようとせず、事態を悪化させるばかりの三宅の無能ぶりにはイライラさせられる。本来彼にはまったく落ち度はないのだが、ここまでマヌケだと同情する気がいっさい起きず、本作の恐怖感を薄れさせる一因となってしまっている。面白いか面白くないかで言えば面白いのだが…。
★★★(3.0)