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女性を地下室で拉致・監禁・凌辱するコレクターの日常。ああっ…-『飼育する男』

『飼育する男』

大石圭/2006年/320ページ

昔、昔…。春のある午後、少年は森の中で、日にさらされて色褪せた雑誌が落ちているのを見つけた。何げなくページを開いた瞬間、若い女性の全裸写真が視界に飛び込んで来て、思わず息を飲んだ。少年はまだ7歳か8歳だったけれど、そんな少年でさえ、それが普通のものではないことくらい理解できた。幼い少年にとって、それは目が眩むほどの衝撃だった。そして思った。いつか僕もこんなふうに女の人を、と―。

(「BOOK」データベースより)

 

 この作者は似たような作品が多くて混乱するが、女性をさらって地下室に拉致監禁凌辱することを趣味とする男の話である。男は独身の大金持ちであり、当然ながら昆虫採集が趣味で犬とピアノを愛している。テンプレ感がすごい。『湘南人肉医』などもそうだが、手垢のつきまくった題材をストレートに書き、かつ読ませるものに仕上げる手管は流石だ。冷徹極まりないと思われていた犯人が、離婚した妻に引き取られた娘の「お父さんと一緒に暮らしたい」という言葉に思わず心動き、将来の致命的なミスに繋がりかねない判断を下してしまう辺りはいろんな意味でスリリングだ。

 ネタバレになるが、近からず来るであろう終わりの予感は語られるものの、最後までこの犯人に裁きの鉄槌が下ることは無い。作者があまりにこの犯人に肩入れし過ぎてしまったのだろうか(あとがきより)。読者が読みたいのはむしろコイツの破滅ではないかと思うのだが。あと地の文と会話文に「ああっ」が多すぎて(50回は使われている)なんだか笑ってしまう。ああっ…!

★★★(3.0)

 

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