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ファンタジー風ほのぼの怪奇譚だが、時おり仄暗いものを覗かせる。「戦慄の湯けむり旅情」って何だよ!-『厄落とし』

『厄落とし』

瀬川ことび/2000年/179ページ

その夜、年明けの挨拶回りにつきあわされ、くたびれ果てて帰宅した恭子を待っていたのは、高校時代のクラスメイト、恵からの電話だった。「お正月早々に墓掘りすることになったんよ」―。表題作「厄落とし」をはじめ、青春ホラーの傑作短編5編を収録。第6回日本ホラー小説大賞短編賞「お葬式」につづく、待望の書き下ろし。

(「BOOK」データベースより)

 

 軽い文体で怪奇現象をユーモアを交えて描く、5本の短編集。作者にこちらを怖がらせようという気がまったく見られず(そもそも、作中人物が誰一人として怖がっていない)、ホラーと言うよりはファンタジーに近いと思えるほど。
 「厄落とし」は、故郷の旧友に“厄落とし”されてしまった主人公が、お風呂の中に長い髪の毛が漂っているのを見てギャーという話。災難だったが2人は友達なので問題なかった。「テディMYラブ」は、妻がテディベア作りにハマってしまった夫の話。家中がテディベアで溢れ、いつしか連中は勝手に動き出すようになったが夫婦の絆はかえって強まるのであった。「初心者のための能楽鑑賞」はタイトル通りの内容で、冴えない会社員が同僚に連れられて能を観に行き、読者と共にいろいろと初心者向けの見どころを教えてもらうお話。「形見分け」は、知り合いの姑が亡くなったというので、縁もゆかりもないはずの実家にいろいろと形見分けの品が届くが、ちょっとした怪奇現象が起きてしまう話。
 ヌルいと言えばヌルいのだが、話自体は起承転結がきっちりしており楽しく読める。ラストの一作「戦慄の湯けむり旅情」は悪ノリの極みに見せかけたガチ目のホラー。女子大生4人組のかまびすしい温泉旅行の様子がだらだら描かれるだけと思いきや、1人が転んだ拍子に何者かによって仕掛けられた竹槍に刺さって死んでしまう。死にながらも他の3人と一緒に温泉に入ったりしていたが、1人、また1人とさらに仲間が死んでいく。死につつも翌朝を迎えた彼女らは…。ユーモラスであると同時に、そこはかとなく不気味な雰囲気も漂う好編だった。

★★★(3.0)

 

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