『うしろ』
倉阪鬼一郎/2007年/365ページ
それは奇妙なマンションだった。女性専用で、セキュリティは万全、一見何の問題も無いように見える。だが、常に観察していれば気づくだろう、ここでは妙に人が入れ替わることに。そして、出て行く者の顔は必ず恐怖に歪んでいることに。音楽を学ぶために来日したイェニョンは、希望を胸に訪れたが―。仕掛けられた呪いが発動するとき、それはうしろに立つ―。
(「BOOK」データベースより)
うしろは怖い。どう振り向いても自分のうしろは見えないが、うしろは常にそこにある。うしろは常に自分を見ている。うしろは「虚」に「死」を内包する。うしろは過去であり、人はうしろに何かを背負わずにはいられない――。ゲシュタルト崩壊しかねないほどにうしろを突き詰め、うしろを考察し、うしろの怖さを暴かんとする文章には偏執的なものすら感じる。
霊的な実験場と化したマンションを舞台に、狂った金持ちと狂った管理人が入居者を惨殺していく…というあらすじだけ聞くとB級なのだが、言葉と文字そのものに注視し、解体し、恐怖へと昇華する著者ならではのスタイルのおかげで陳腐さは感じられない。その独特さが癖になる、ひらがな3文字タイトルの文字禍ホラーシリーズ第1作目である。
★★★☆(3.5)