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ホラー視点で読むヒーロー漫画。コンセプトは新しいが企画倒れ気味-『マスカーワールド ~石ノ森章太郎恐怖アンソロジー~』

『マスカーワールド ~石ノ森章太郎恐怖アンソロジー~』

石ノ森章太郎/2001年/315ページ

すでに描かれていた21世紀の恐怖! 「変身忍者嵐」「仮面ライダー」「ロボット刑事」「イナズマン」「佐武と市捕物控」など、名作に秘められていた恐怖のメッセージ!

(Amazon紹介文より)

 

 石ノ森章太郎のヒーロー漫画を中心に、ホラー風味の強いエピソードを集めたアンソロジー。上記の紹介文は大ウソで、仮面の世界というタイトルから想像できる「仮面ライダー」シリーズや「佐武と市捕物控」は本書には収録されていない。

 変身忍者嵐「蜜蜂の羽音は地獄の子守唄」は、解説の川崎ぶらによれば「本アンソロジーを編むキッカケになった作品」であり、さすが本書の中でもぶっちぎりの怪奇度を誇る。変身忍者嵐ことハヤテは、蜜蜂のロウで目を塞がれたあげく、蜂に刺し殺された男の最期の言葉をもとにとある村へたどり着く。その村で身ごもった女ばかりが姿を消す事件が起きていた。そしてハヤテの前に姿を現した血車党の化身忍者! その正体は「異様なまでに過剰な母性」を武器に、子守唄で相手を赤子に変えてしまう刺客であった。
 山田風太郎の小説やくノ一モノのAVでおなじみの母乳攻撃で蜜蜂を呼び寄せ、蜂の化物に姿を変えた赤子にロウを吐かせ、無数の胎児と臍の緒でハヤテの身体を緊迫するその戦いぶりはテレビ化不可能の凄惨さ。漫画版の『変身忍者嵐』は読んだことがなかったのだが、この一編ですっかり圧倒されてしまった。

 この後に続く「イナズマン」「ロボット刑事」のエピソードはブツ切り感が強く、顔見せ程度にしかなっていない。「奇妙な友人たち/まがまがまがま」はヒーローものではなく、作者が過去に出会った風代わりな友人たちを描くという連作短篇。本作は「ガマガエルにはテレポーテーション能力がある」と主張するガマガエルそっくりの醜男の話で、古き良き怪談の雰囲気が濃厚。サイボーグ009「凍った時間編」は、加速装置の故障で常に加速したままになってしまい、他人と話すことすらできなくなってしまった009の孤独と焦燥を描く20ページの短編。

 試みは非常に面白いのだが、もっとセレクトすべきエピソードがあったのではという気はしなくもない。難しいこともわかるのだが。

★★★(3.0)

 

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