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忌まわしい過去が現在を苛む。急転直下の落ちが決まる、キレのいい短編ぞろい-『怪談歳時記 12か月の悪夢』

『怪談歳時記 12か月の悪夢』

福澤徹三/2011年/224ページ

初詣の夜に妻を見失った男。帰ってきた妻は、以前とはなにかがちがっていた。老人の語りが戦慄を呼ぶ「鬼がくる家」。女子大生の“あたし”は真夏の山中で、われにかえった。見知らぬ車に見おぼえのない服。失われた記憶を求めて恐るべき真相にたどり着く「迷える羊」。平凡なOLが引っ越したマンションには、得体のしれない誰かが住んでいた。女の情念と狂気を描く「九月の視線」。四季を舞台に織りなす12篇の恐怖。

(「BOOK」データベースより)

 

 12作品、いずれも十数ページの短編ながら急転直下のオチが見事に決まっており(しかも後味が悪いものがほとんど)、これぞ怪奇短編の醍醐味という気分にさせてくれる。捨て去ったはず、忘れたはずの「過去」が時間を経て捉えにやってくる話が多く、なんとも厭な歳時記となっている。

 あろうことか職場のビルで遭難してしまった男の不運を描く「五月の陥穽」は、角川ホラー文庫ベストセレクション『再生』にも収録された傑作。神社の周りを3周したものは姿を消してしまう…という都市怪談まる出し言い伝えが、心の闇と忘れがたい過去と情念を暴き出す「おどろ島」も忘れがたい(タイトルは不条理ホラーの傑作『ポドロ島』を意識してるのかもしれない)。渋滞を避けて下道を走ったら大事故を起こして子供が瀕死になる一家の話「紅葉の出口」は、最初から最後まで「想像できる限りの最悪」を味わわせてくれてたいへん厭な気分になれる。

 具体的にどれかは言わないが、最後の1行ですさまじいどんでん返しを見せてくれる話も複数あり、作者の手際の良さと匠の技に唸らされる。収録された全作、ハズレがない。

★★★★(4.0)

 

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